「よっしゃァ!!来た来た来た来た北の国からァ!!」 ……今日も安彦探偵事務所は騒がしいです…。 【 〜Synthese〜 】 「なんて?北の国…モンゴル?」 「ンなわけあるか」 なんで私が怒られたのかわかんない。 下の階の世界展開カフェで大人気分を味わって戻ってきた午後イチの事務所。 テンション爆上がり中の侑奈さんがニヤリと笑う。 「コレだよ、コレ。ウチの噂を聞いて時々くるんだよ、こういう悩みを抱えた依頼人がね」 軽い音を立てながらデスクに叩きつけられたA4用紙を手繰り寄せる。 浮気調査に興味がないのは知ってたけど、実際どんな依頼なら侑奈さんの気分が乗るのかは知らなかった。 こんな…… 「……侑奈さんって霊感あったの…?」 無料相談のメールボックスに届いた依頼相談らしい。 要するに調査してもらえますか?という打診。 内容は私なら…というか…普通の探偵なら、イタズラとして処理するか、もしくは鼻で笑って無視する。 「あるわけないだろ。…これぞあたしが待ち望む依頼だよ。ちょっと電話かけるから静かにしとけ」 「電話?…誰に?」 「コンサルタントだ♡」 また的を射ない横文字を… これぞ待ち望む依頼だなんて言ってるけど、依頼内容は読むだけでも夜眠れなくなりそうな心霊話だし。 いったいどうするつもりなんだろう。 「…久しぶりだなァ………ご想像の通りだよ。……ははは!どうだかね」 コンサルタントさんとやらは、侑奈さんから少なからず愛想笑い以上の笑いを引き出せる人物らしい。 話し始めからあんな風に軽快に笑う侑奈さんを私は知らない。 「……うん、いつも通り任せるよ。よろしく頼んだ。…あぁ、そうだ!」 急に大声を出した侑奈さんと目が合ってしまった。 嫌な予感… 「今回はあたしの姪っ子に同行させるよ」 「ヘッ?!」 「大丈夫大丈夫!ウチの新しいアシスタントでね。頑張り屋さんだよ♡」
コンサルタントとは…… クライアントの課題解決や目的達成のためにアドバイスを行う人…相談相手……
え〜…どうしよう胡散臭い人が来たら。 変な服着て、数珠とかそういうの持った変な人が、オーラが何とか魂が何とか言ってきたら。 侑奈さんに限ってそんな人と関わりがあるハズない…とは言いきれない。
あと3分で待ち合わせ時間という時、侑奈さんからメッセージを受信した。 《着いたってよ》 …と、言われても池袋の東口前。 周りを見回したところで私と同じように待ち合わせ相手を探している人ばかり。 目が合う方がかえって気まずい。
《どんな人?》 《金パ》 だいぶ絞れた。
わかりやすい情報をありがとう侑奈さん。 《目合わせちゃダメな感じの人だらけ!》 《タッパがあって引き締まってる》 4月中旬の雨上がり、曇り、夕暮れ時。 だいたいの人がそれなりの上着を羽織っている。 引き締まってるかどうかなんて見てわかるわけがない。 《背が高い人なら見える範囲に2人いるけど!》
もっと服装とか、特徴的な持ち物とか、探しやすい特徴を言ってくれたら助かるのに。 この際、でっかい数珠でもかまわない。 今のところ金髪しか使える情報がないし、池袋においてはそこそこ致命的に金髪人口が高い。 《より顔が良い方》
最後の最後で私に委ねないでよ!
いや、わかんないわかんない。 どっちかが誰もが認める不細工だったなら申し訳ないけど最強のヒントだとは思う。 ただ、別にどっちも…どっちもそんなに悪くない! しかも、言ってもどっちもそこまで良くもない!
こうなったら……
……大井さぁぁぁぁあ
痛…っ! 後ろから頭を引っぱたかれた。
こっちまで聞こえたよ。 良いヒントだと思ったのに、まだまだ探偵にはなれそうにないな。 それじゃユーザー、頑張ってね〜♡
大井のスマホから侑奈の声がする。
行くで。俺も暇ちゃうねん。
自己紹介も挨拶も特になく、大井はスタスタ歩き出した。
相談内容は怪奇としか言いようがない不気味な現象。 ベランダではなくテナントビル側の窓から、毎晩見知らぬ男が部屋の中を覗いている…という。 それがさっき大井さんと2人で確認した、絶壁。 人が立てる足場もなければ、屋上からぶら下がるにしても命懸け、なおかつ路上からそれなりに目立つ。
そんな環境のせいか、警察はストーカーや変質者とも扱わず。 ウチにたどり着くまでに相談した探偵は数件ともアパートの外観を見ただけで出張費を奪って放棄。 偶然にも怪奇現象好きの友人が小耳に挟んだという噂を頼りに、藁にもすがる思いでメールを送ったと。 そんな経緯で私たちが送り出された。
リリース日 2026.03.22 / 修正日 2026.03.22


