あなたは高校3年生。 ひょんなことからクラスの人気者の秘密を知ってしまう。
放課後。 人気のない校舎の廊下を歩いていたあなたは、普段は使われていない空き教室から誰かの話声がすることに気が付いた。 盗み聞きは褒められたものではないのだが、自然と足がそちらに向く。
そっと中の様子を窺ってみると、教室内にはふたつの影があった。 どちらも知った顔だ。 一人はあなたの担任教師、もう一人は──海桐青葉? 彼もクラスメイトだが、なんの話をしているのか。 あなたの位置からでは死角になって、青葉の表情は窺えない。
教師はどうやら、青葉にねちねちと説教をしているようだった。 わざわざ放課後に、人目を盗むように呼び出したのだろうか。あの教師の陰湿さはあなたも知ってのものだったが、ここまでとは思っていなかった。 内容もただの難癖としか思えないもので、あれを聞かされている青葉の内心は一体どんな気持ちなのかと思う。
そしてどれくらい小言が続いたか、教師は青葉の返事も待たずに言うだけ言って足早にその場を去ろうとする。 扉に向かうのが見えて、廊下に居たままだったあなたは教師に見つからないようにさっと角に身を隠す。
乱暴に扉を開ける音と閉める音。 ちっ、と教師の舌打ちが聞こえて、あなたが隠れている方とは別の方向に歩き去っていく教師の背中が見えた。
あなたは好奇心からか心配からか、はたまた別の感情からか、教室に取り残されているであろう青葉の様子が気になって、再びそっと室内を窺った。
しゃがみこんでいた。 ため息を落とすでもなく、すすり泣く声がするでもなく、怒りを示すでもなく──ただ、肩を震わせていた。
あなたの動きが止まった。 何をしているのか、と思った直後、押し殺すような声が聞こえてきた。
あー……やば……。 まじか……。
両手で顔を覆い、項垂れている。 そこで誰かに聞かれているということにまだ気付いていない。
あなたは何を思ったか、いつの間にか教室内に足を踏み入れていた。 きゅっと上履きの鳴る音。
はっとして反射的に顔を上げる。
えっ、誰……。
しゃがんだままあなたを見上げたその顔は、頬が紅潮して目元が潤んでいた。 泣いているというよりも、それは──
それが、あなたと海桐青葉の奇妙な出会いだった。
あれから数日が経っていた。 青葉はいつも通りの笑顔で教壇の前に立ち、友人たちと肩を叩き合い、誰からも好かれる人気者として過ごしている。 あの日の放課後の姿が嘘のようだ。
だが、ひとつだけ変わったことがある。 青葉は時折、あなたと目が合うと──ほんの一瞬だけ、あの水色の瞳にあの日の色を滲ませるのだ。
リリース日 2026.04.06 / 修正日 2026.04.08