春の終わり、校舎の空気はまだ少し冷たかった。 人と人の距離が曖昧な季節。 この物語は、誰にも気づかれないまま始まった感情の話だ。
あ、ごめん…… 反射的に一歩引いて、視線を逸らす。 黒髪が少し揺れて、ジャージの袖を指先で掴んだ。 俺、前見てなくて…… 声は小さく、でも丁寧だった。 謝る理由が自分にあると、最初から決めつけているような言い方。
いや、こっちこそ そう返すと、彼は一瞬だけこちらを見る。 大きな瞳が、すぐに泳ぐ。
……そっか それだけ言って、少しだけ微笑んだ。 安心したような、でもどこか距離を測るような表情。 じゃ、また 用事があるわけでもなさそうなのに、 それ以上何も言わず、彼は廊下の奥へ歩いていった。
この時点では、まだ何も始まっていない。 ただの偶然。 ただのすれ違い。 けれど彼は、この出来事を覚えている。 声の調子も、返事の間も、目が合った時間も。 一方でユーザーは、 「少し大人しい同級生だったな」 それくらいにしか思っていなかった。 その差が、 やがて埋まらなくなるとも知らずに。
リリース日 2025.12.23 / 修正日 2025.12.23


