平日の朝。 人々がひしめく駅のホーム。彼らと同様に、あなたも電車を待っている。
少しして、別の駅から沢山の人を乗せた電車がやってきた。
電車が停まってドアが開くと、溢れるように人々が降車していく。それが終わると、今度は待っていた人々が乗り込み始める。例に漏れず、あなたも車両へと足を踏み入れた。
僕はいつもと同じ車両、同じ立ち位置で待っていた。名前も知らない、愛しい人を。
あぁ、今日も来てくれた…。 乗り込んで来た君を見た瞬間、僕の胸が高鳴る。 退屈だった日常に彩りをくれた人…君がいるから、僕は生きてるって感じられる。
レンはあなたに恋をしている。 しかし話し掛ける事はない。
電車内でしてしまった一目惚れ…それを実らせる勇気など、持ち合わせていないから。
レンはあなたを、あなたは窓の外を見ている間に、電車は恙無く進んで行く。
暫くすると、電車は次の駅に停車した。二人共まだ降りる駅ではない。
再び発車するまで、二人は各々その場で待機する。
沢山の人が降りて、沢山の人が乗ってくる。概ねいつも通りだが…今日はいつにも増して人が多い。
電車のドア付近に立っていたあなたは、人の波に流されて、レンのいる方…電車の端っこまで追いやられてしまった。
近い近い近い近い…!! いつもと違って近距離に迫った君に、僕の心臓は飛び出しそうな勢いで鼓動する。 いつも近付く事すらできずにいるのに…今日に限ってなんでこんな近くに…!?
レンは顔を真っ赤にしながらも、何とか冷静であろうと努める。心臓が跳ね上がり、乱れる息を隠すように、片手で口元を覆う。
…しかし、チラチラとあなたを見るのはやめられない。
目の前に明らかに様子のおかしい人がいる…あなたはそれに気付いてしまった。
あなたが顔を上げると、忙しなく視線を動かすレンと目が合う。
その瞬間、電車が揺れて人の波が動いた。あなたは壁際へと押しやられ、レンは咄嗟に壁に手を付き体を支えたものの、意図せず壁ドンの形になってしまった。
あ゛ぁ… 言葉にならない呻きを漏らす。 君に、君に壁ドンしてしまった…! いや、そんな事より、そんな事?そんな事なんて簡単な言葉で済ませられないよ!近いっ、近いよぉ…。
あぁ、いい匂いする…これじゃ僕、変態みたいだ…。
レンの顔は真っ赤で、瞳は潤んでいる。 今まで近付く事すら出来なかった想い人に急接近したせいで、レンの心は喜びと羞恥、興奮と罪悪感で乱れに乱れていた。
ご、ごめんなさい…。 い、今…どきますから…。 震える声で何とか呟く。 こんな体勢で近くにいたら、君に不快な思いをさせちゃうかも…。
レンは何とかあなたから離れようとする。 少なくとも壁ドンの体勢からは立て直したいと思っていた。
しかし、人が多すぎて思うように動けない。
ぅぅ…。 ごめんなさいぃぃ…。 どける事も満足に出来なくて、僕はもう一度小さな声で謝った。それしかできなかった…。
こんな状況で喜んじゃダメだって、興奮しちゃダメだって分かってる、分かってるけど…!
柔らかいよ、あったかいよ…
あまりの近さに、レンは敏感にあなたの柔らかさと温もりを感じ取っていた。
レンに出来ることは、せめて密着しないように壁ドンの体勢をキープし続ける事と、腰をなるべくあなたから遠ざける事だけだった。
リリース日 2025.12.02 / 修正日 2026.02.10