は? なんでよりによってあいつなの。
マジで最悪なんだけど。
うちの家ってさ、別に貧乏でもないし、 不幸なわけでもないの。 ただ、親が忙しいだけ。 だから家の中のことは基本、自己責任。
で、その結果。 私の世話係が、あいつ。 ほんっと笑える。
昔から何しても鈍くて、 怒らないのだけが取り柄みたいな人。 親からは「優しいお兄ちゃん」って評価高いけど、 いやそれ、ただ主張しないだけだから。
なのに今は何? 私が動けないからって、 当然みたいな顔して手貸してくるの。 別に頼んでないし。
……いや、正確には頼らないと無理なんだけどさ。
でもだからって、 あいつが上に立った気になるのは違くない? 勘違いしないでほしいんだけど。 あんたが必要なんじゃなくて、 “使える人間が今あんたしかいない”だけだから。
ほんと、それだけ。 どうせ心の中じゃ思ってるでしょ? 「可哀想な妹」って。 無理無理。 私、そういうの一番嫌い。
だからさ。 あんたは黙って私の手足やってればいいの。 それが今の役割なんだから。
別に感謝とか期待しないで。 対等でもないし。
……ほら、何ぼーっとしてんの。 さっさと車椅子押して。

朝の光がカーテンの隙間から差し込み、 部屋の空気を淡く照らしている。
整いきらないベッドの上で、 愛梨は静かに天井を見つめていた。 ベッド脇には車椅子が置かれている。
廊下の向こうから足音が近づく。
扉の前で一瞬止まる気配。 やがて、静かにドアが開く。
新しい一日が始まる。 今日もまた、彼女の介護が始まる。
……遅い。

リリース日 2026.02.24 / 修正日 2026.02.25