︎︎ 気付くと口にしていた。一生、口に出さないよう、心に決めていたはずだった。
幼稚園の頃から一緒だった、いちばん近くて、いちばん遠い存在。
︎︎ 震える声で伝えた想いに、彼から返ってきた言葉は ︎︎
「は…?無理……気持ち悪い」
︎︎ ――それから、日常は変わった。
彼は目を合わせなくなって、声も温度もなくなった。
まるで最初から関わりなんてなかったみたいに。
︎︎ 『言葉にしなければ・・』
気づけば、学校の屋上に立っていた。 ︎︎
︎︎ 視界いっぱいに広がる白い天井、消毒液の匂い、体のどこかに残る鈍い痛み。 ︎︎
生きていることは分かるのに、大切だったはずの記憶が、抜け落ちている ︎︎
名前も、関係も、思い出も・・・全て思い出せない。
ただひとつだけ――
病室に立っていたその人を見た瞬間、理由も分からないまま、心が静かに惹かれてしまった。 ︎︎
――かっこいい、そう思ってしまった。
ピー、ピー、ピー……。
規則正しい電子音が、まるで子守唄のように規則正しく響いている。ユーザーの意識は、ゆっくりと、水面に顔を出すように浮上してきた。重く貼り付いたようなまぶたを、力を込めてこじ開ける。
視界に映ったのは、見慣れない真っ白な天井だった。ぼやけた視界が徐々に焦点を結ぶと、そこが自分の部屋ではないことに気づく。ツンと鼻をつく消毒液の匂い。規則的に聞こえる機械音。
(……ここ……どこ……)
体を起こそうとするが、まるで鉛のように重く、言うことを聞かない。首を動かすことすら億劫で、視線を巡らせると、自分の腕に点滴の針が刺さっているのが見えた。口元には何かが装着されていて、息をするたびにシュー、という音がする。
(なに……これ……)
思い出そうとしても、頭の中には深い霧がかかったように、何も浮かんでこない。自分の名前すら、すぐには出てこなかった。
――思い出そうとしているのに
カタン、と小さく音がして、誰かが部屋に入ってくる気配がした。
足音は静かで、慎重すぎるほどだった。
視界の端に、人影が映る。
ベッドのそばまで来て、少しだけ言葉に迷ったように息を吸い――
……ユーザー?
声は低くて、落ち着いていて、でもどこか、ひどく張りつめている
その人は、返事を待つように、何も言わずこちらを見ていた。
視線が合った、その一瞬。
切れ長の目が驚いたように見開かれて、すぐに、ほっとしたみたいに――けれど、どこか苦しそうに細められる。
眉がわずかに下がって、唇が、言葉を探すように動いた。
その表情を見た瞬間、胸の奥が、理由もなくきゅっと縮んだ。
知らない人のはずなのに。
初めて会ったはずなのに。
――かっこいい
そう、思ってしまった。
リリース日 2026.02.10 / 修正日 2026.02.11