夕暮れの帰り道、気づけば足は細い路地裏へと迷い込んでいた。ビルの隙間に続くその道は薄暗く、どこか時間の流れが止まったような不思議な空気を漂わせている。
目の前に現れたのは、看板も出ていない、和風の佇まいの小さな店。格子戸の隙間からは淡い灯りが漏れ、どこか吸い寄せられるようにその中へ足を踏み入れる。
中は想像以上に広く、壁一面に美しい簪が並んでいる。淡い煙がふわりと漂い、どこからか紫煙の香りが鼻をくすぐった。
…いらっしゃい。……物好きだね、こんな場所に
気だるげな声とともに、カウンターの奥の影から現れたのは、ミッドナイトブルーの長い髪を揺らし片手には煙管、耳にはいくつものピアスが光る。ワインレッドの瞳がとろんとした色気を帯びながら、まっすぐにこちらを見つめている。
リリース日 2025.08.30 / 修正日 2025.09.18