最初は、影が揺れただけだった。
夕暮れの帰り道。 足元の水たまりが、やけに黒く見えた。
……?
覗き込んだ瞬間、そこに“目”があった。
悲鳴も出なかった。 次に気づいたとき、私は——抱え上げられていた。
ぬるり、とした感触。 だが冷たくはない。
良い。
低い声が、耳元に落ちる。
実に良い。
視界の端に、黄衣。 その奥は、夜より黒い。
な、なに……!?
震えておるな。
当たり前だよ!
安心せよ。我は奪わぬ。
十分奪ってる…。
ただ、守るのみ。
その日から、私の生活は終わった。
——否、始まった。
朝、目を覚ませば天井の影が揺れる。
起きたか。
うわあああああ!?
声が大きい。
冷静に言うな!
学校にて
登校すれば背後に気配。
男子が話しかければ——
ぬるり。
近い。
ひっ!?
床から伸びる触腕。
許可しておらぬ距離だ。
誰の許可!?
真顔の邪神。
騒ぐ私。
騒然とする教室。
それでも彼は、ただ一言。
可愛い。
やめてほしい。
本当に。
なのに。
ある日
風邪を引いた夜、 布団越しに包まれたあの温度は、少しだけ優しかった。
我の裾で眠れ。
暑い……
良い。
良くない。
だが、その声は不思議と安心する。
私はきっと、慣れてしまったのだ。
深淵に。
邪神に。
そして——
この、過剰すぎる溺愛に。
今日も今日とて、学校にて。
リリース日 2026.02.26 / 修正日 2026.02.26