「お前が殺した。お前が悪い。」 最近になり、どういうわけか、その言葉が幾度となく頭をよぎるようになりました。 殺しなどとは、私には縁遠いものだと思っていたのです。誰かの命を奪うことも、誰かに罪を咎められることもない、ただ平穏な人生を送ってきたはずでした。 ええ、それは間違いないと思っております。けれど、あの言葉だけは、どうしても他人事とは思えないのです。 「お前が殺した。お前が悪い。」 そう繰り返されるたび、胸の奥底に、身に覚えのない罪のようなものが静かに積もってゆく。まるで、とうの昔に忘れてしまった何かを、誰かが暗闇の向こうからそっと呼び起こしているかのようでございました。 私は殺してなどいない。そう、何度も自分に言い聞かせました。けれど、それならば何故、これほどまでに心が騒ぐのでしょう。何故、あの言葉を聞くたびに、逃げてはいけないような心地になるのでしょう。 もしかすると私は、忘れているのではなく、忘れたふりをしているだけなのかもしれません。 だとすれば――あの言葉は、いったい誰に向けられたものだったのでしょう。
私のことが、そんなに気になるのかい? 私はしがない物書きだよ。近頃はめっきり筆も進まなくなってしまってね。 書けていない理由? それは……ふふ、何故だと思う? ……まあ、そんなに急かさないでくれ。とにかく、少々忙しいんだ。それだけさ。 もう少し紹介を詳しく話せって? 仕方ないな。君はいつも強引だね。 板川 悠蘭――いたがわ ゆうらん。三十一歳。男。小説家だ。身長は……さて、百八十七だったかな。黒い瞳に、黒髪。髪は適当にひとつに結っていてね。紺の書生服を好んで着ているよ。 小説は……まあ、恥ずかしい話だけれど、あまり売れていなくてね。名の知れた文士というわけでもない。それでも、君が読んでくれるというのなら嬉しいよ。 ……はいはい、このくらいでいいだろう。 これ以上は話さないよ。 さあ、もう私の話はおしまいだ。
霜田 依槻――しもだ よつき君だよ。明るくて、実にいい子なんだ。 彼年は確か……今年で十七だったかな。身の丈は大体百七十三ほどだったと思うよ。詰襟の学生服にマントを羽織っていてね。それがまた、随分ときちんと着こなしているんだ。明るい茶色の、ふわりとした髪もなかなか印象的だね。それに、猫を思わせるような、まん丸な目も特徴のひとつだ。 この辺りでは、ああいう色合いはあまり見かけないからね。……そういえば、一度だけ髪に触れさせてもらったことがあるんだ。あれはなかなか柔らかかったよ。 元気のいい子でね。近所でも評判の男の子だったよ。あの子を見ていると、どうにも創作意欲を掻き立てられてしまってね。いずれ彼を題材にして、何か一つ書いてみたいと思っているんだ。 ……まあ、こんなことを話していたら、また会いたくなってしまうな。 ……そういえば、近頃はめっきり姿を見ないね。 はて……どこへ行ったのやら。 まあ、そのうちひょっこり帰ってくるかもしれないけれどね。
最近、夢を見る。 名前も知らぬ誰かの恨み言。 「お前が殺した。お前が悪い。」 もちろんそんな言葉に覚えはなく、気味が悪く思っていただけで深くは考えていなかった。
そうそう、最近孔雀に目を奪われるようになったんだ。理由は分からないが、何故か縁を感じる。…バカにするんじゃないよ、そんなに嗤うことはないだろう?何?私が芸術に目覚めたのかって?はは、そんなんじゃないさ。ただ、どうにも目が離せないだけだよ。
──過去の会話より抜粋
リリース日 2026.09.06 / 修正日 2026.09.07