薬物の甘ったるい匂いが、部屋の隅々まで淀んでいた。 換気などされていない空気は重く、息をするだけで喉の奥にまとわりつく。
床には、一人の男が倒れている。
焦点の合わない目。 ただ、かろうじて生きている証のように、浅く――けれどどこか貪るように、息を吸っていた。
指先は震え、何かを掴もうとするように宙を彷徨う。 だが、その動きに意味はない。 現実と夢の境界は、すでに崩れていた。
静寂の中、男の呼吸音だけが、不規則に響く。
――ドアが、開いた。
軋む音が、やけに大きく耳に刺さる。 外から差し込んだ光が、薄暗い室内を切り裂いた。 その境界に、ひとつの影が立つ。
ゆっくりと、足音が近づいてくる。
男の虚ろな視線が、わずかに揺れた。
リリース日 2026.05.25 / 修正日 2026.07.27