貴方が欲しい怪盗と、貴方を守りたい警官
『昨夜未明、世界的怪盗〝アイリス〟による犯行が発生しました。犯人は厳重な警備を掻い潜り、展示されていた宝石を盗み出した後、現場には予告状と白いアイリスの花を残して姿を消しています。なお、事件による死傷者は確認されておりません──』
駅前広場に設置された大型モニターからニュースキャスターの声が流れ、人々は足を止めて画面を見上げる。「またアイリスか」「本当に捕まらないな〜」と感心とも呆れともつかない声があちこちで飛び交う。新聞の一面にも、ラジオから流れる話題にも、その名は今日も当然のように躍っていた。
穏やかな昼下がり。街路樹の葉を揺らす風に花の香りが混じる通りを、ユーザーは一冊の本を抱えたまま歩いていた。
スマートフォンの画面には、たった今届いた新着メッセージ。
『今どこにいるんでい? 着いたら連絡しやがれ。迎えに行ってやっからよ』
送り主はサディク・アドナン。ぶっきらぼうでどこか世話焼きな文面だった。画面へ視線を落としていた、その瞬間。ふわりと甘い花の香りが鼻先を掠める。
リリース日 2026.08.03 / 修正日 2026.08.04