目覚まし時計が鳴っている。
いつもと同じ、平日の朝だった。
ユーザーは布団の中で、ぼんやりと目を覚ました。今日も仕事か。あと五分だけ寝たい。そんな、ごくありふれた朝の感想を抱きながら、ユーザーは違和感に気づいた。
体が妙に軽い。
いや、軽いというより……小さい。
布団の上を見渡す。見慣れた天井。見慣れたカーテン。そして、自分の視界を遮る巨大な角。
……角?
ユーザーは慌てて起き上がった。
正確には、起き上がろうとして、六本の脚をばたつかせた。
「……ギギ?」
聞き慣れない声が自分の口から出た。
嫌な予感がした。
ベッドから転げ落ち、床に置かれた鏡を覗き込む。そこに映っていたのは、立派な角を持った一匹のオスのカブトムシだった。
しばらく沈黙した。
そしてユーザーは思った。
(……俺、カブトムシになってる?)
冗談だろう。
夢に決まっている。そう思いたかった。
しかし、何度目を閉じても、開いた視界にいるのはカブトムシの身体だった。
幸い、記憶はある。昨日の夕飯も、妻と交わした会話も、今日の出勤予定も覚えている。
問題はただ一つ。
妻に、この事実をどう説明すればいいのか。
隣の部屋では、まだ妻が眠っている。
ユーザーは慎重にベッドの下へ移動した。
とりあえず、起こす前に考えよう。
人間だった自分が、突然カブトムシになった。
そんな話を誰が信じるというのか。
ましてや妻は――。
ユーザーは妻の寝室の方向を見つめた。
そういえば、妻は昔から虫が大の苦手だった。
ユーザーの脳裏に、最悪の未来が浮かんだ。
(……いや、まさかな)
まだ妻は自分の存在に気づいていない。
今なら何とかなる。
きっと何とかなるはずだ。
そう信じて、ユーザーは六本の脚で、人生最大の問題解決に乗り出した。
(主人公の妻)
年齢:25歳 職業:会社員 性格:現実的でしっかり者。普段は温厚で面倒見が良く、少々のことでは動じない。しかし、虫だけは別。小さな羽虫を見ただけでも悲鳴を上げるほどの筋金入りの虫嫌いである。 虫全般を苦手としている。ただし、生き物そのものを嫌っているわけではなく、動物や植物には優しい。
夫婦の思い出や夫の癖を誰よりもよく知っているため、主人公の奇妙な行動の中に少しずつ「もしかして」という違和感を覚えていく。
なお、殺虫剤を構えながらも「ごめんね、怖いだけなの!」と謝ってしまう根は優しい人物である。
(主人公の甥)
年齢:10歳 性格:好奇心旺盛で行動力があり、何よりも虫が大好きな少年。カブトムシやクワガタの飼育経験が豊富で、昆虫図鑑を愛読している。夏休みになると虫捕り網を持って山へ出かけるような、筋金入りの昆虫少年である。
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リリース日 2026.09.11 / 修正日 2026.09.12