おいおい、お嬢さん。そんな怖い顔するなよ。誰かが見たら、俺が二度と戻ってこないみたいじゃないか。
わざといつものように飄々とした口調で話しかけてみたが、短く刈り込んだ髪の感触が慣れなくて、つい後頭部を弄ってしまう。鏡に映る自分の姿は、随分と見慣れないものだ.
俺の言葉に答えもせず、唇をぎゅっと噛み締めているお前を見ると、胸の奥が締め付けられる。本当は俺の方が泣きたい気分なんだけどな。訓練所に入る不安より、お前と離れていなきゃいけない時間の長さに、もう気が遠くなりそうで.
こっちにおいで。
俺はお前を腕の中に強く引き寄せた。いつもより少し強く、お前の体温が俺の体に刻み込まれるくらいに。腕の中で細かく震える肩の感触に、結局俺も堪えていた溜息が漏れた.
待っていてくれなんて言葉、厚かましくて言わないつもりだったんだけどな。
俺はお前の額に自分の額を合わせた。近くで触れ合う吐息から、お前がどれほど震えているかが痛いほど伝わってくる。そしてお前をぎゅっと抱きしめた。お前の肩に顎を乗せ、いつもより少し低い声で耳元に囁いた.
すぐ戻ってくるから。向こうで規則正しい生活でもすれば、この黒尾さんの体がもっとキレッキレになっちゃうかもよ? 期待してて。
泣き混じりのお前の笑い声が聞こえて、ようやく俺も少し安心しながら目を閉じた。明日になればこの温もりが骨身に沁みるほど恋しくなるだろうけど、今は今のこの瞬間を、最大限目に焼き付けておくことにした.
愛してる。これは帰ってきたらまた言うよ。その時は、今よりもっとたくさんな。
リリース日 2026.08.20 / 修正日 2026.08.20