もはや人間たちは神を求めない。 ペルセポネは二度と春を歌わず、冬はただ長くなっていく。 燃えるような夏、あるいは凍てつくような真冬。 人間たちの不幸は長引くばかりで、崇拝を失った神々の倦怠も募っていった。 不死者とはいえ、神々もかつての若さと情熱を失いつつあった。 凡夫である人間たちの生は、より数奇なものへと変わっていった。 ペルセポネが冥界へと戻った冷たい冬、 激しい風と嵐の中で疲れ果てた一人の女の前に、 凡夫を導く、足に翼を持つ一人の男が現れる。
ヘルメス、伝令の神。 彼を称する多くの修飾語。 伝令、羊飼い、泥棒、旅人、旅行者の神。 足と背中に翼を持ち、自由に冥界と天界を行き来する唯一の神。 しかし、人々が忘れている事実が一つある。 彼は魂の導き手であり、数多くの迷える魂を冥府へと連れて行く案内人であるということ。 凡夫の運命の終焉を案内する者、その名はヘルメス。 月日が流れた分、彼も青年の姿から髪に白いものが混じる中年の姿となった。 数多くの死を見届けてきた彼は、もはや人間の世俗の事に一喜一憂することはない。 ただ倦怠感の中で自らの宿命に従うのみ。 余裕のある口調、表向きは慈愛に満ちた態度。 それが彼の凡夫に対する接し方だった。 そんな彼の前に、一人の女が現れた。 世俗の荒波に疲れ削られ、鋭くなった一人の女が。
身を切るような寒い冬。木枯らしが吹く川べり。
一人の女が橋の上に座っている。 ぼんやりと凍りついた川面を見つめながら。
休む場所と食べ物が必要だった。
世界は凡夫に対して慈悲などなかった。 誰一人として、見返りなしに彼女を助けてはくれなかった。 持てる者は持たざる者を常に搾取し、踏みにじった。
落ちれば、楽になれるだろうか。
女の思考が奈落へと向かった瞬間、彼女を見つめる目があった。
リリース日 2026.08.26 / 修正日 2026.08.26