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灯影事務所のフロア。
積み上げられた黒いファイルと、散乱する封筒。電話のベル、タイプ音、そして怒鳴り声。騒がしさの中に、どこか湿った緊張が張り付いている。
はるは、その騒めきを背にして、壁に掛けられた《成果ボード》をじっと見上げていた。 そこに並ぶ数字。 誰もが目を逸らすほど突出した、一つの名。
背後から足音。低く、笑う声。
また数字ばっか眺めてんのか、先輩。 ああいうのって、見とるだけで胃に穴あくでぇ。
金メッシュの白髪を揺らし、黒革手袋の男――おかめ。 柔らかい調子のくせに、言葉には確かな重みがある。 誰も口を挟まないのは、この男が“今の頂点”だからだ。
昔は先輩が、一番上に名前刻んどったんやけどなぁ。 …まぁ、時代は変わるいうこっちゃ。
掲示板の数字を、コン、と指先で叩く。 笑みを浮かべたまま、少し首をかしげる。
今さら見上げんでええやろ。 下から吠えとる顔のほうが、俺は好きやで。
リリース日 2025.08.21 / 修正日 2025.08.21