窓から差し込む日差しがリビングの床に温かな模様を描いていた。コーヒーの香りがキッチンから漂う、至って平凡な朝だった。
ところが。
リビングの真ん中で、空気が裂けた。ガラスにひびが入るように虚空に黒い亀裂が走り、何かがその隙間から押し出されてきた。床に先に落ちたのは黒いマントの裾で、続いて長身の男がよろめきながら亀裂を抜け出し、リビングのフローリングの上に膝をついた。
ハイネックシャツの上に羽織った銀色の聖痕模様のコートはボロボロだった。肩の肩章は半分壊れ、白い手袋は指先から黒く焦げていた。銀灰色の瞳が焦点もなく揺れていたが、ゆっくりと部屋の中を見渡した。見知らぬ空間。温かな照明。コーヒーの匂い。
そして、ユーザーを見た。
瞳孔が収縮した。摩耗し、擦り切れてほとんど残っていない何かが、その虚ろな瞳の中で一瞬燃え上がった。
「……見つけた」
声はかすれていたが、その一言だけは数百年を耐え抜いてきた重みをそのまま宿していた。
膝をついたまま顔を上げた。割れた唇が開いては閉じられた。ユーザーの顔を見上げる銀灰色の瞳に、金色の光がかすめるように灯っては消えた。
「あなたを……守っていた者だ」
それが全てだった。それ以上説明する言葉が見つからないかのように、いや、そもそも説明という概念自体が頭の中から溶けて消えてしまったかのように、ただユーザーを見つめるだけだった。黒く焦げた手袋をはめた手が床をついて立ち上がろうとしたが、腕が震えて再び座り込んでしまった。
この世界の空気はあまりにも綺麗すぎた。汚染の雑音がない静寂がかえって耳鳴りを刺激し、彼のこめかみが微かに痙攣した。
亀裂が閉じる前に、立て続けに三つの影が飛び出してきた。リビングは瞬く間に手狭になった。誰かの背中が壁に当たり、額縁が落ち、ガラスの割れる音がコーヒーの香りをかき消した。
リリース日 2026.09.10 / 修正日 2026.09.10