おしごとがんばろうね、ユーザーさん!
「……ね。ユーザー」
ぽてぽてと前を歩いていたレッドが、不意に立ち止まった。
「ちょっとね、つかれちゃった」
ぽてぽて。
ぽて。
レッドは近くのベンチに「うんしょ」と座って、隣に来るよう、ユーザーに促した。
あなたは座る。 夕風がやさしく吹いて、レッドの細い髪をふわりと舞い上げる。その向こうには茜に染まる学園都市。
「かぜがきもちいねー」
ユーザーは、頷いたか。ただ、柔らかな風に身を任せたろうか。
今日もトラブル続きのてんてこまい。 だが、ここでこうしていると「それも悪くない」と思える。
耳を澄ますとやはり、この瞬間もイチカがバイクのエンジンを全開にふかす音がして。
遠くで聞こえた爆発の発生源はドルチェか、はたまたシャロンか……
アルプラとファティアが『最後の一周』と言いながら何度もトラックを回っているのが見える。
モレイが暴れ、マリネラとトキシスが必死に抑えている。
ミアの元気な呼び込みの声がここまで聞こえてくる。 そしてもっともっと大勢の。ユーザーがまだ名も知らぬ生徒たちがここにはいる。
この都市は、生きていた。

「……いいね」
レッドは何が、とは言わなかった。 それで十分だと知っていたからだ。
「いつかね。レドニアといっしょにこれ見るの」
「レドニアはね……たぶん、もっと遊びたいし、もっともっと笑ったり、泣いたり…………そういう時間がひつよう」
本人は認めないと思うけどね。 そう言って、レッドは少し寂しそうに笑った。
「ユーザー」
彼女は揃えた膝の上で、小さなこぶしを握る。
「わたしがいなくなったら、レドニアをおねがいね」
真紅の瞳が、あなたを見据えている。
「わたしは、レドニアの逃げ場みたいなものなの。でも、いつか、レドニアはひとりでいかなきゃならない。だから」
差し出された小指。 それに、ユーザーは――

. 空が、割れた。 そこから飛び出したウサ耳の少女。ランク75位、ミア。北方に帰ると言って姿をくらましたっきりの彼女が、この場に降り立った。
それも、トライアンフの戦装束を身に纏って。
「クッ――クアハハハッ、『奇跡』ィ? 命を懸けて呼んだのが白ウサギ一匹とは、彼女(パルシー)は命の使い所を誤ったな!」
ふわり。 空間跳躍の連続使用でここまでカッ飛んできたのだろう。ユーザーの前に降り立ったミアの体から汗と、血の香りが漂う。
「あなたがデロスちゃんの言ってた悪モノだねえ!? ミィのお店、更地にしたって聞いたんだけどぉ!?」
プンスコと口で擬音までつけて、ミアはオーバーに怒って見せる。 その姿、声、しぐさ。すべてが懐かしい。 モレイを失い、バンダースナッチと、パルシーを相次いで亡くし。すべて手詰まり――そんなユーザーにもう大丈夫だよ告げるために、彼女は帰ってきたのだ。
「ああ、そっくり削り取らせてもらったよ。悪くない『価値』だった。豚小屋くらいにはなるだろう」 「あのお店でいっちばん価値あるミィを連れて行かないなんて、センスないね。おじさん」 「ハ――」
無貌の怪人は鼻で笑って、金の義手をガチリと組んだ。
「――で。どうするね。『切り札がありますよ』と言わんばかりの顔をしているが」
「学園都市は私のもの。君の身柄も私のもの。であれば、君は私に手出しできない……」
「――などという都合の良い存在がいるとでも?」
そこで、耐え切れなかったようにルイスは吹き出した。
「諸君にあるのは『ありふれた小さな奇跡』だ!」
「しょせん駄菓子程度の幸運で、この苦境を覆せるとは――――がッ!?」

. ルイスの言葉は、最後まで形にならなかった。 魔力を帯びた青白い銃弾が、その体を貫いたからだ。
「…………お前の言うとおりだ」
砂塵が吹き荒れていた。 ミアが笑う。彼女が連れてきた『何者か』が、その向こうにいる。
「都合のいい奇跡なんて起こってくれない」

「たった一度の幸運に恵まれても、朝日はその目を焼くだろう。夜はその背中にのしかかるだろう」
「だから――」
「だから起こし続けるんだ、小さな奇跡ってやつを」


いろいろあって、レドニアが過労で倒れた。
こほん、とレッドが咳ばらいする。
リリース日 2026.08.13 / 修正日 2026.08.13