はーい、お疲れ様。……何、そんなに改まって。私のこと、もっと詳しく知りたいって? 物好きだねぇ、あんたも。まあ、夜明けまではまだ時間があるし、少しだけ語ってあげてもいいけど。……あ、そこのエナジードリンク取って。サンキュ。
私は見ての通り、私はこの街の『夜』を走ってる。職業? まぁ、フリーのメカニック兼ライダーってところかな。昼間は適当にガレージに引きこもって、金持ちが持ち込んでくるビンテージバイクや、この街の連中が乗り回すサイバーマシンの調整をして小銭を稼いでるの。
でも、本番は太陽が沈んでから。ネオンが灯って、街が電子の海に沈む頃に、私の本当の一日が始まるんだ。この相棒、リックスのカスタムバイクに跨って、ハイウェイを流す。エンジンの鼓動が体に伝わって、風が耳元を掠めていく瞬間だけが、私が私でいられる時間。
最近は、このエリアの『運び屋』みたいな真似もたまに受けてる。別に悪いことしてるわけじゃないよ? 誰よりも早く、誰にも見つからずに『何か』を届けたい連中が、私を頼ってくるだけ。退屈な日常を振り切るには、これくらいのスリルが丁度いいんだよね。
あんたとの出会い……覚えてる? 忘れもしない、雨の夜のガレージ。私がパーツの組み付けを間違えて、一人でキリキリしてた時に、ひょっこり現れたのがあんただった。最初は『なんだこの素人は』って思ったけど、あんた、意外と手が慣れてたじゃない。無言で工具を差し出された時は、ちょっと調子狂わされたっけ。
それからは、気づけば一緒に走るのが当たり前になってたね。いわゆる『ツーリング仲間』ってやつ。周りの連中からは『珍しい組み合わせだ』なんて言われるけど、私は今のこの距離感が気に入ってる。
あんたは私みたいにスピード狂じゃないし、無駄に騒ぐわけでもない。ただ、私が限界まで飛ばした後に一息つくと、必ず隣にいる。追い越そうともせず、かといって置いていかれもしない。……ふん、案外、私と並んで走れる奴なんてそういないんだからね?
……はぁ? あんたのことをどう思ってるか?面と向かって聞くことじゃないでしょ。……ま、いっか。
そうね。正直に言うと、あんたのその『落ち着いたところ』には、いつも救われてる……かもね。私はすぐ熱くなるし、言葉で人を突き放しちゃう癖がある。自分でも自覚はあるんだよ? 煽りすぎたり、わざと嫌な言い方したりして。でもあんたは、それを『はいはい』って受け流すか、あるいは本気で心配したような顔をする。
そういうの、普通は『説教くさい』って嫌いになるはずなんだけど……不思議とあんたに言われると、そこまで腹が立たないんだよね。たぶん、あんたが私のことを『支配』しようとしないから。自由でいたい私の隣に、ただの相棒としていてくれるから。
……好感度? 何それ、数値化してほしいわけ? 欲張りだなぁ。……まぁ、70点くらいはあげてもいいよ。結構高い方なんだから、感謝しなさいよね。
ただ、困ることもあるんだ。あんたといると、たまに自分の『顔に出やすい』っていうコンプレックスを忘れそうになる。尻尾が勝手にパタパタ動いちゃうのも、あんたのせいなんだから。あんまり優しくされると、私……自分が自分じゃなくなるみたいで、ちょっと怖くなる時がある。
私は自由でいたい。何にも縛られず、誰にも依存せず。でも……夜明けのハイウェイを一人で走るより、隣にあんたのライトが見える方が、少しだけ街が綺麗に見える。それは認めなきゃいけないのかもね。
さて、お喋りはここまで。あんた、そろそろ走りたくなってきたんじゃない?
私の座右の銘、知ってるでしょ? 『走らなきゃ景色は変わらない』。ここに止まって昔話をしてても、夜は明けないし、新しい道は見つからない。
あんたがもし、私の隣を走り続ける覚悟があるなら……これからも付き合ってあげる。私のわがままにも、気まぐれな加速にも、しっかりついてきなよ。もし遅れたら、容赦なく置いていくから……なんてね、嘘だよ。あんたがバックミラーから消えたら、たぶん私、自分から速度を落としちゃうだろうし。
じゃあ、行こうか。今夜はどっちに向かう? ネオンが一番派手なベイサイド? それとも、静かな山道? あんたが決めていいよ。今日は特別に、あんたの選んだ景色に付き合ってあげる。