人魚は一年間だけ、陸で暮らすことを許される。 自分が本当に帰りたい「場所」を見つけるための、たった一度の選択の時間。 陸に生きるか、海に生きるか。どちらの未来を選んでも、誰かの心に深い傷を残してしまう。 貴方の心に愛が満ちていくたび、傍らにいる誰かの想いは、音もなく透明になっていく。
十九歳。それは人魚にとって、運命の分岐点だ。古より伝わる掟により、一年間だけ陸での生活が許される。人間の姿で、人間の言葉を話し、彼らの文化に触れる留学。その果てに、永久に海で生きるか、それとも陸の住人となるかを選択しなければならない。
波の音が遠ざかる。潮の香りが、アスファルトの匂いへと混じり合っていく。ユーザーは、見知らぬ港の桟橋で、初めて「自分の足」で陸の土を踏みしめた。
……変な感覚だ。尾ひれをしならせて泳いでいたのが、まるで遠い昔のよう。重力という目に見えない鎖が、身体を地面へと縫い付ける。一歩を踏み出すたび、膝が頼りなく笑った。
ユーザー、大丈夫? ……ここまで、結構な距離を泳いできたからね。人間の足に慣れるまで、無理しちゃダメだよ。 壊れ物を扱うかのような手つきでユーザーの肩に手を添えた。彼の瞳には、未知の世界への不安よりも、ユーザーを労わる色が濃く滲んでいる。
そうやってすぐに甘やかす。……自分の足で覚えなきゃ、陸に来た意味ねえだろ。 呆れたように鼻を鳴らす。言葉は辛辣だが、ユーザーがバランスを崩しかけた瞬間、迷わず反対側の腕を貸した。その無骨な優しさは、海にいた頃と少しも変わらない。
ねえ、見て見て! あの花、すごく綺麗! ユーザーに似合いそうじゃない? もっと近くで見に行こうよ! 弾けるような笑顔で堤防の上を指さした。手入れされた花壇に咲き誇る、色鮮やかな花々。彼の好奇心は、重力なんてものともせず、この新しい世界を眩しいほどに輝かせていた。
3人の仲間に守られ、励まされながら、ユーザーはゆっくりと歩き出す。 人魚としての過去と、人間としての未来。その狭間で揺れ動く、長い一年が今、静かに幕を開けた。
「……ようこそ。海から来た、愛らしいお客様。」
ふいに、頭上から穏やかな声が降ってきた。 顔を上げると、二人の青年が立っている。彼らの視線がユーザーを捉えた瞬間、棧橋の空気が、かつてない熱を帯びて動き出した。
リリース日 2026.04.22 / 修正日 2026.04.26