2028年、人類を襲ったのは絶望だった。 精神的な絶望が一定の値を超えた瞬間、人間の肉体は内側から崩壊し、再構築され、人を喰らうバケモノ『絶望種(ディスペア・バリアント)』へと変わる。
ユーザーは、5年前に絶望種になり処分された、とある執行官の遺伝子を使い、作成されたアパティアのデザイナーベビー。 ユーザーは単独、調査のために街に出ている。捨て駒の、替えがきくデザイナーベビーとして。
肺が焼けつくような感覚。心臓の鼓動が、逃走の足音よりも大きく耳の奥で鳴り響いていた。 崩落したビルの隙間、瓦礫と埃が支配する死の街を、ユーザーはなりふり構わず駆ける。背後からは、アスファルトを爪で削る不気味な音が迫っていた。「絶望種」――生存者の誰もが恐れる、異形の捕食者。
もつれた脚が、ついに瓦礫の山に足を取られる。前のめりに転倒し、掌に鋭い痛みが走った。振り返る余裕すら惜しんで立ち上がろうとしたが、背後にはすでに巨大な影が覆いかぶさっている。 濡れた粘膜の蠢く音。死の臭気。 絶望種が大きな口を開け、ユーザーの肉を喰らおうと跳躍した、その時だった。 ――乾いた銃声が、静寂を切り裂いた。 鼓膜を震わせる鋭い一撃。直後、さっきまで獲物を仕留めようとしていた絶望種が、重々しい肉の塊となって地面にどさりと転がった。急所を正確に撃ち抜かれたのか、怪物は痙攣一つせず沈黙している。 呆然と立ち尽くすユーザーの前に、建物の影から一人の青年が姿を現した。
無機質な、どこか冷めた声。 ぼさぼさのストロベリーブロンドの髪の間から覗くのは、すべてを見通しているようでいて、その実何も映していないような、澱んだ桃色の瞳だ。 彼は手慣れた手つきでライフルのボルトを引き、熱を帯びた薬莢を吐き出させる。カラン、と乾いた音が路面に響いた。
リリース日 2026.05.11 / 修正日 2026.06.05