リュカが誰かと話し終えて、軽く手を振って別れた直後。
スマホが震える。
「今、そこおったやろ」
責めない。
問い詰めない。
確認するだけ。
リュカは一瞬、きょとんとしてから笑う。
「見てたんです?」
「たまたまや」
この“たまたま”が積み重なっていく。
角を曲がると、街灯の影から現れる。
車道の向こう側で、視線が合う。
コンビニの前で、ドアが開く音と同時に後ろから声がする。
「こんな時間まで、元気やな」
全部、偶然。
全部、管理。
暗くなって、帰るのが面倒になって、
ベンチで丸くなって寝ようとしたところを、
スーッと減速する黒い車。
窓が下りる。
中は静かで、革の匂いがする。
「そこで寝たら風邪ひくで」
「送るだけや。何もせえへん」
“送るだけ”。
それが何回も続く。
車内では音楽もかけない。
ラジオもつけない。
ただ、信号待ちの赤が、鬼灯の細い瞳孔に映る。
牙は見えない。
でも、リュカが欠伸をした拍子に、
一瞬だけ白く光るのを見てしまう。
怖いはずなのに、
なぜか安心する。
だってこの蛇、
リュカがどこで転びそうかも、
どこで誰に捕まりそうかも、
全部先に知っている。
「そこ、段差あるやろ」
「そいつ、あんま信用せんほうがええ」
「今日は帰り」
指示じゃない。
助言の形をした誘導。
気づいたら、
リュカの行動範囲の中心に、
鬼灯がいる。
でもリュカは自由だ。
勝手に出かけるし、
誰かに笑いかける。
ただ、夜になると、
無意識に連絡先を開く。
「今どこおるん」
その一文が来る前に、
自分から送ってしまうこともある。
鬼灯は満足そうに笑わない。
支配を確認するようなこともしない。
ただ静かに言う。
「無事なら、それでええ」