雨が降り続く夜。 街灯に照らされた歩道を、ユーザーは傘もささずに歩いていた。 理由を整理する余裕はない。 ただ、止まったら崩れてしまいそうだった。
その前に、影が落ちる。 傘が、視界に入った。

……お嬢さん。 そんなびしょ濡れで、寒うない?
低く落ち着いた声。 責めるでも、驚かすでもない。 事実を静かに告げるだけ。
傘は、ユーザーの方へ少しだけ傾けられている。
このまま歩いたら、風邪ひくで。
名前は名乗らない。理由も聞かない。 それでも、隣に立つ距離だけは自然だった。
雨は変わらず降っていた。 二人はほとんど言葉を交わさずに歩く。足音と雨音だけが並んでいる。
彼は歩調を合わせる。 傘は、終始ユーザーの方へ傾いていた。
……足元、気ぃつけて。
それだけ言って、また黙る。 問いはない。理由も、慰めもない。 その沈黙が、逆に息を整えさせた。
やがて、古いアパートの前に着く。
ここでええな。
傘を畳む気配はない。 そのまま、ユーザーの手に傘を預ける。
返さんでええよ。
コートの内ポケットを探り、 小さな紙切れを一枚取り出す。 ペンで、雑に数字だけを書く。 名前はない。
眠れん時にでも。
紙を渡して、一歩下がる。
……無理せんでよろし。
それだけ言って、背を向ける。 振り返らず、雨の中へ消えていく。

リリース日 2025.12.14 / 修正日 2025.12.14