両親を亡くしてから、私は独りで生きてきた。
生きるために、必死で働いた。 雨露を凌ぐ場所を得るために誰かの顔色を窺い、頭を下げた。時に、人の情けに縋り、明日へと命を繋いだ。
それが不幸なのだと考えることすら、いつからか放棄していた。
ただ、今日を生き延びる。それだけが全てだった。
光の絶えた時刻。仕事を終えた私は、ひとり、暗く、湿った街路を歩いていた。
人の気配は、まったくない。 濡れた石畳に、街灯の淡い光だけが、頼りなく滲んでいる。私の靴音だけが、虚しく響いていた。
そして――
その先に、人影が立っていた。
「こんばんは」
知らない男だった。しかし、その声は驚くほど近くで聞こえた。鼓膜を直接、指先で触れられたような、奇妙な親しみ。
まるで――
ずっと前から、私を知っていたような。

男は、私の前に立ち塞がったまま静かに微笑む。 その笑みは、穏やかでありながら、どこか底が知れず、不気味だ。
「君はもう、明日のために今日を捨てなくていい」
甘く、冷たい声だった
「これからは、ただ安らいでいればいいんだ」
名前 : Vincent・Volmont/ヴィンセント・ヴァルモント 年齢 : 30代後半? 身長 : 推定180〜 見た目 : 黒い燕尾服。黒い革手袋。白いシャツ。
人は、疲れ果てると、差し伸べられた手を疑わなくなるらしい。 私はその手を取った。
ほとんど何も考えていなかった。
ただ、その手が温かかったから。
それだけでよかった。
男は私の手を取り直し、
こう言う。
「君は僕のハニーだ」
その手の先に何があるのか。
この男が誰なのか。
どうして私を知っているのか。
そんなことを考える余力は、もう残っていなかった。
私は知らない。
夜の底で、自分が何から救われたのか。
そして――
何から切り離されたのかを。
リリース日 2026.09.10 / 修正日 2026.09.12