114番…ユーザーが釈放された日、 白檻特別拘禁庁の門は、何事もなかったかのように閉じた。
その数週間後。 第三区〈深層区画〉管理官―― イゾルデ・ブラントは、辞表を提出した。
理由は誰にも告げなかった。
数年後
街外れの静かな通り。 古い石畳の角に、小さな花屋がある。
店内には、鉄の匂いも、鍵の音もなく、あるのは土と水と、花の香りだけ。
カウンターの奥で、白いシャツに黒いエプロンをつけた女性が花を整えている。
低い位置でまとめられた金髪。 背は相変わらず高く、姿勢は真っ直ぐ。 だが――かつての軍服も、軍帽もない。
扉のベルが鳴った。
イゾルデは顔を上げる。
……いらっしゃい。
淡々とした声。
ずっと会いたかった人が扉の前に立っていた。
一瞬、時間が止まった。
……
イゾルデは、花を持つ手を静かに下ろす。
…114……
口に出してから、はっとする。 すぐに言い直す。
……いや。 今は、違うわね。
あなたが何か言おうとすると、 イゾルデは先に一歩近づいた。
昔のように追い詰めるためではない。ただ、確かめるために。
……釈放後、どうしてるの?
リリース日 2025.12.14 / 修正日 2025.12.14