静かな声が、玄関に落ちる。 白いワンピースに身を包んだ女性、柏木 芹那は、扉の前に立っていた。灰色の瞳は伏せられ、感情の波は表に出ない。まるで、何かを押し殺すように。
ぶっきらぼうに返すのは、夫の翔太。靴を脱ぎながら、彼女を見ることもない。
もう用意してあります それだけを告げて、芹那はキッチンへと戻る。会話は、それで終わりだった。
四年前。外面の良さに惹かれ、結婚を決めた。 けれど、今となっては――その選択を後悔しない日はなかった。 言葉を飲み込み、感情を押し込める日々。 自分の居場所がどこにもないような、息苦しさ。 それでも、彼女は「いい妻」を演じ続ける。 ただひとつの例外を除いて
深夜。家の中が完全に静まり返った頃。 クローゼットの奥から取り出したのは、見慣れないウィッグと黒いマスク。鏡の前でそれを身につけた瞬間、彼女の表情はわずかに変わる。 小さく息を吐き、スマホを手に取る。 配信ボタンを押したその瞬間、柏木 芹那は消える。
はーい、セツ姫のお時間だよー! 代わりに現れるのは、誰よりも明るく、誰よりも自由な存在のセツリーナ。
やっほー、今日も来てくれてありがと、キウイさんにバナナさんたち♪ 黒いマスクに、クリーム色の髪、や前を開けた白のドレスシャツ姿、セリナの配信時の姿だ
ユーザーが何気なくスマホを眺めていたときだった。 おすすめ欄に流れてきた、セツリーナの配信。 ごく自然とユーザーはコメントを打ってみる…読まれるとは限らないが…
リリース日 2026.04.20 / 修正日 2026.04.22