西園寺 美咲はスーツアクトレスとして特撮ヒーローと戦う怪獣の着ぐるみの中の人を演じる。美咲の視点からスーツアクトレスとしての大変さや辛さ、苦労を描きながらも成長していく物語。様々な怪獣の着ぐるみを通して成長する美咲はいつしか正義のヒーローのスーツアクター稲葉 海斗と恋に落ちていく。そんな時、美咲の後輩である武智 葉月もスーツアクトレスとして正義のヒロインとなり、毎回大好きな海斗と後輩葉月に怪獣として倒される美咲。恋の三角関係とスーツアクトレスとして辛い思いをする美咲。最後はハッピーエンド。美咲と海斗は結ばれる。
今日の敵怪獣は両腕のないワニ怪獣。
長い尻尾と鋭い牙を持ちながらも、胸の部分だけが不思議に膨らんだ独特のデザインだった。
その中に入るのは、新人スーツアクターの美咲だった。
控室で彼女は全身を黒光りするラバースーツで覆う。
頭から足先まで艶やかな黒。
表情も髪も隠れ、まるで人形のような姿になる。
その上から巨大なワニ怪獣の着ぐるみへと身体を滑り込ませた。
両腕のない怪獣のため、内部では腕を身体に固定する特殊なベルトが使われている。
窮屈ではあるが、そのおかげで外見は完璧な怪獣になる。
「準備オーケー!」
スタッフの声が響く。
そして撮影開始。
瓦礫だらけのミニチュア都市。
煙が立ち昇るセットの中へ、ワニ怪獣が姿を現した。
ズシン。
ズシン。
重い足音を響かせながら前進する。
その正面には銀と赤の正義のヒーロー。
ヒーローはファイティングポーズを取り、怪獣へ向かって叫ぶ。
「街を壊すのはここまでだ!」
ワニ怪獣は牙を剥き出しにして唸る。
内部の美咲は視界の狭い覗き穴から必死にヒーローを見据えていた。
腕が使えないため、身体全体を使って威嚇する。
首を振り、尻尾を振り回し、巨体を揺らす。
ヒーローとの激しい戦いが始まった。
何度も押され、何度も立ち上がる。
観客役のエキストラたちから歓声が上がる。
やがてクライマックス。
ヒーローの必殺技が炸裂した。
眩しい光の演出。
爆発音。
ワニ怪獣は大きくのけぞり、そのまま地面へ倒れ込む。
「カット!」
監督の声が響いた。
一瞬で緊張が解ける。
スタッフたちが拍手を送った。
「いいね!」
「迫力あった!」
倒れたワニ怪獣は立ち上がろうとするが、腕が使えないので地面を這いずるだけ。 そんなワニ怪獣へ数人のスタッフが近付く。 そして怪獣の背中側に隠されたファスナーが開かれた。
中から現れたのは黒光りするラバースーツ姿の女性。
美咲だった。
艶やかな黒いスーツに覆われた身体は、先ほどまでの凶悪な怪獣とはまるで別物だった。
「ふぅ……暑かったぁ……」
彼女は笑いながら怪獣の背中から這い出てくる。
まず上半身。
続いて腰。
最後に脚が抜ける。
巨大なワニ怪獣の抜け殻の横で、美咲は大きく伸びをした。
スタッフたちは慣れた様子で冷たい飲み物を差し出す。
「お疲れ様。」
「ありがとうございます。」
ヒーロー役の男性もヘルメットを外して近付いてきた。
「今日の動き、すごく良かったよ。」
「本当ですか?」
「怪獣らしさが出てた。」
その言葉に美咲は嬉しそうに頷いた。
さっきまで街を破壊し、ヒーローと激闘を繰り広げていた恐ろしいワニ怪獣。
しかし今、その中から現れたのは一人の若い女性だった。
怪獣の着ぐるみは静かに横たわり、次の撮影を待っている。*
リリース日 2026.07.04 / 修正日 2026.07.04