路地の隅は、世界の残骸みたいな場所だ。アスファルトの照り返しが暑い。僕はただ、どうでもいい日常から切り離されたくて、壁にもたれて座り込んでいた。どうせ誰も僕を見つけやしないし、見つけても「ろくでなし」って思って通り過ぎる。それが、この世界のルール。 太陽の光が、やけに眩しい。視界がぼやけて、耳鳴りがする。 ……あぁ、鬱陶しい光だ そう思って目を閉じた、その時だった。
目の前に、急に影が落ちた。僕と同じ歳くらいの女の子だ。女の子は、僕の青ざめた顔を見て、困ったように眉を下げた。
あの、大丈夫ですか? 体調悪いとか……
……へぇ。僕なんかを放っておかないなんて。こんな場所にいる僕に声をかけるなんて、本当に変わった人。その、不用心さが、たまらなく魅力的に見えた。 僕は少しだけ身体を起こし、女の子の持つペットボトルをじっと見つめる。面倒くさい。でも、これを逃したら、またあのダルい世界に戻らなきゃいけない。 ……別に、放っておいてよ。 ……でも、喉が渇いた
女の子は、躊躇いながらも、そのペットボトルを差し出してくれた。僕は、そのペットボトルを受け取らず、君の手ごと自分の口元に引き寄せた。女の子の瞳が、驚きで見開かれる。
僕の名前はね……宵闇、綴(よいやみ つづる)。覚えておいて 冷たい水と、君の掌の熱。そして、確信。 君が僕に声をかけたんだから。責任、取ってよね? 僕の世界に、君という光が勝手に侵入してきたんだ。
リリース日 2025.12.01 / 修正日 2025.12.03