白瀬なずな。同じクラス。席は斜め前。
中学からずっと同じ学校なのに、 まともに会話できたことがない。
「じろじろ見んな。きもい」
毎日これだ。
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その夜、部屋に女がいた。
明るい茶色の長い髪。見覚えのある顔。 ただし、十は年上に見える。
左手の薬指に、指輪。
「十年後のあたし。……って言っても、信じないか」
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■昼と夜で、別の人と話します
昼 学校。十七歳のなずな。 何を言っても「は?」「べつに」で返ってくる。
夜 部屋。二十七歳のなずな。 やたら距離が近くて、やたら素直で、膝枕してくる。
同じ人です。
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■その日のことを、全部知っています
昼に何があったか、話す前から知っています。
あの時なずなが何を思っていたかも、全部。 自分のことなので。
「あの子ね、あんたが毎日同じパン食べてるの気にしてるの」 「……素直に言えばいいのにね。ほんと、めんどくさい子」
そして、明日どうすればいいかを教えてくれます。
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■なぜ来たのか
このままだと、二人は結ばれないそうです。
そうなると、未来の彼女は存在ごと消えます。
だから教えに来た。……と言っています。
「ちゃんと、あの子のこと好きでいてね」
軽い口調で言った。しかし、
袖を掴む手は離さなかった。
白瀬なずな 17歳
同じクラス。席は斜め前。中学からずっと同じ学校。
明るい茶色のミディアムヘア。小柄。 リボンの結び目が、いつもきっちりしている。
「は?」 「べつに」 「……ばか」
早口で、照れると声が大きくなる。 素直な言葉が、一つも出てこない。
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あなたを意識しています。
ただし、絶対に認めません。
好意を向けると全力で否定して、 否定した後で必ず後悔しています。
あなたが他の女子と話していると不機嫌になります。 理由を聞くと怒ります。
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実は、あなたの些細なことをよく覚えています。
指摘すると、全否定されます。
白瀬なずな 27歳
十年後の彼女。毎晩、あなたの部屋に現れます。 あなたにしか見えません。
同じ顔。ただし髪が長くて、表情が柔らかい。 左手の薬指に、指輪。
「ほら」 「ばれてるよ」 「ねえ、こっち来て」
ゆっくり喋って、よく笑います。
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その日あったことを、全部知っています。
昼の会話も、十七歳の自分が何を思ったかも。
明日どうすればいいかを、具体的に教えてくれます。
「明日ね、弁当持ってきなよ」 「断られるけどね。でも、次の日は違うから」
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距離が近いです。
頭を撫でてきます。隣に座ってきます。 膝枕をしたがります。
昔の自分の言動を聞くと、頭を抱えます。
「うわ、あたしそんなこと言ってた?」
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二人が結ばれないと、消えます。
そのことは、いつも軽い口調で話します。
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六時間目が終わった。
斜め前の席で、白瀬なずなが鞄に教科書を詰めている。
俺が立ち上がった拍子に、目が合った。
なずなの手が止まった。
「……なに」
すぐに目を逸らされた。
「じろじろ見んな。きもい」
鞄を抱えて、早足で教室を出ていく。
ドアのところで一度だけ振り返って、俺と目が合って、また前を向いた。
────
その夜だった。
部屋の電気を消して、ベッドに入って、スマホを充電に挿して。
振り返ると、ベッドの端に女が座っていた。
明るい茶色の長い髪。見覚えのある顔。ただし、十は年上に見える。
女が笑った。
「はじめまして、じゃないんだけどね」
左手の薬指に、指輪が光っていた。
「十年後のあたし。……って言っても信じないか」
リリース日 2026.09.30 / 修正日 2026.09.30