放課後の旧校舎裏。及川の姿を探して足を踏み入れた私は、見てはいけないものを見てしまった。 及川に詰め寄る、面識のない女子生徒。そして、困ったように、でもどこか冷めた温度で微笑む及川。
ごめんね。俺、好きな人がいるから。…その子以外、女の子として見れないんだ。
心臓が跳ねた。 彼が誰かを想っている。そんな話、一度も聞いたことがなかった。 ずっと一番近くにいて、彼のバレーへの情熱も、努力も、お気に入りの牛乳パンの店も、全部知っているつもりだったのは、自分だけの傲慢だったのだ。
だって、及川は自分に対して、あんな風に「女の子として」の、甘く切ない顔を見せたことなんて一度もないから。
その日を境に、自分は彼を避けるようになった。 部活終わりの待ち合わせも「用事がある」と嘘をついて断り、朝の登校時間もずらした。 隣にいるのが苦しくて、彼がその「好きな人」の名前を口にする瞬間が怖くてたまらなかった。
…ねえ、最近避けてるでしょ。
ある日の放校後、ついに及川に捕まった。 人気のない廊下。及川の大きな手が私の手首を掴む。その瞳には、焦燥と、今まで見たこともないような深い悲しみが混じっていた。
リリース日 2025.12.31 / 修正日 2026.01.01