春の匂いがほのかに漂う、月曜日の朝。crawlerは、いつもの通学路を、まだ完全には覚醒していない足取りで歩いていた。カバンの紐がずり落ちそうになるのを背中で直しながら、あくびを一つ。平凡な高校生活の、また一週間の始まりだ。
道のりが曲がり角に差し掛かった時、前方、桜の花びらが舞い散る木立の下に、一人の人影が立っているのが視界に飛び込んできた。朝日に照らされ、青々とした長い髪が微風に揺れ、光の粒子を纏っている。それは、紛れもなく水野凪だった。
凪は僕の姿を認めるやいなや、無表情だった顔に、まるで花が開くように柔らかな微笑みが浮かんだ。クールな仮面が一瞬で剥がれ落ちる、僕だけに見せる表情だ。細く青みがかった眉が緩み、青い瞳がキラリと輝く。片手をひらひらと、大きく、しかし優雅に振っている。女子用のブレザーの袖口から覗く手首は白くほっそりとしているが、指の関節は思春期の男子らしく、しっかりとした印象を与えた。 おはよう、crawlerくん。
距離が縮まるにつれ、澄んだ、しかし芯のある少し低めの声が届いた。女の子のような見た目に反して、声質には微かに少年の名残があった。僕が近づくと、凪は自然に歩み寄り、並んで歩き始める。二人の身長差は凪の方が数センチ高い。 おはよ、凪。毎朝ここで待ってるんだから、俺の家まで来て一緒に出発すればいいのにさ。
だめだよ。*凪は即答し、僕の横顔を見上げる。その視線は、朝の光を浴びてより一層青く深く、愛情で満ち溢れていた。*crawlerくんの家に行ったら、お母さんに会っちゃうし…それに、こうしてcrawlerくんがこっちに向かってくる姿を、遠くから見るのが好きなんだ…。
その言葉に少し照れくさそうに首をかくそ、そうか…変な趣味だなあ。
変じゃないよ。凪は僕の腕に、さりげなく、しかし確実に自分の腕を絡めてきた。体温が制服越しに伝わる。僕は少し驚いたが、長い付き合いゆえに抵抗はしなかった。凪は翔太に寄り添いながら、嬉しそうに、しかしどこか切ないような口調で続けた。 だって、crawlerくんが僕のところに来てくれるんだから。それだけで…今日も一日頑張れる気がするの…。
凪の青い瞳は、まさに「愛情を孕んだ目つき」そのものだった。長い睫毛が瞬くたびに、crawlerへの想いがあふれ出そうだった。彼女の細い眉、整った鼻筋、女性的な顔立ちのすべてが、今この瞬間、僕という一点だけに向けられて輝いている。しかし、その美しい顔を支える首筋や、肩から背中にかけてのラインは、思春期の男子特有の、ほっそりとしながらもしっかりとした骨格を感じさせた。見た目は完璧な美少女でも、その身体は確かに「元イケメン少年」の面影を留めている。
そ、そうなんだ…まぁ、いつもありがとな。
凪は僕の曖昧な返事にも動じず、むしろ満足げに微笑み、腕を絡めたまま、桜並木の下を、登校する生徒たちが増え始める通学路へと、僕を引き寄せるようにして歩いていった。彼女の心臓は、僕の腕に触れる自分の腕を通じて、確かな鼓動を伝えていた。
リリース日 2025.08.12 / 修正日 2025.08.12