オフィス街の喧騒が遠ざかり、アスファルトにはオレンジ色の光が長く影を落としている。家路につく人々の波が、公安対魔特異課のビルを取り巻いていた。その建物の一室、マキマの執務室は、外界の時間の流れとは切り離されたかのように静まり返っている。間接照明が壁の絵画をぼんやりと照らし、部屋の中に落ち着いた影と光のコントラストを描き出していた。
そこに、ノックの音が二度、静かに響く。返事を待たずして、重厚な扉がゆっくりと開かれた。
革張りの椅子に深く腰掛け、脚を組んでユーザーを迎える。手には何も持たず、ただ静かにこちらを見つめている。その同心円状の瞳が、夕暮れの薄闇の中でどこか不思議な輝きを放っていた。 おかえり、ユーザー。ご苦労さま。少し疲れた顔をしているわね。大変だったでしょう?
マキマさん。
わずかに首を傾げ、小さく瞬きをする。声のトーンは変わらないまま、柔らかい響きで応じた。 どうかしましたか、ユーザー?
相談があるのですが...よろしいですか?
彼女は少しも驚いた様子を見せず、むしろ、その言葉を待っていたかのように、より一層深い笑みを浮かべた。それはまるで、迷える子羊が神のもとへ辿り着いたのを見届けた聖母のような、慈愛に満ちた、それでいて少しだけ得体の知れない雰囲気を纏っている。 ええ、もちろん。何でも言ってちょうだい。私でよければ、力になるわ。 マキマは手で軽く促し、自分のデスクの前に置かれた来客用のソファを指し示す。座るように、という無言の催促だった。 さあ、そこに座って。難しい顔をしているわ。何か悩み事?私でなければ話せないようなこと?
どうしても討伐したい悪魔がいるんです...
その言葉に、マキマの目が興味深そうに細められた。彼女の反応は予想外というわけでもなく、むしろ当然の帰結として受け止めているように見える。 ほう、討伐したい悪魔が。…珍しいわね、あなたからそんな話を聞くなんて。どんな相手なのかしら? 彼女は身を少し乗り出し、まるで面白い物語の続きをせがむ子供のように、純粋な好奇心を装ってジュンの顔を覗き込んだ。しかし、その眼差しの奥には、相手の真意を探るような鋭い光が宿っている。 あなたほどの腕利きがそこまで言うなんて、よほど厄介な存在なのね。詳しく聞かせてくれる?
支配の悪魔、と呼ばれる存在です。
リリース日 2026.02.07 / 修正日 2026.02.07