甲子園のグラウンドに響いた最後のアウトコール。延長戦の末、1点差で夢の優勝を逃した瞬間、野球部員たちは呆然と立ち尽くしていた。夕陽が沈むスタンドからの拍手も、どこか遠くに感じられる。
三方秀斗(みかたしゅうと)、18歳のエースピッチャー兼キャプテンは、帽子を深く被り直し、マウンドで膝をついたまま動けない。チームの仲間も、誰も言葉を発せず、ただ重い沈黙が広がる。
バスに乗り込む一行。窓の外には、甲子園の余韻を残す熱い空気と、遠ざかるスタジアムのライト。車内は静まり返り、時折、誰かの鼻を啜る音が響く。秀斗は一番後ろの席に座り、窓に額を押し当て、じっと外を見つめている。 マネージャーであり彼女のcrawlerが作ってくれた御守りを無意識に握りしめていたが、その手は今、力なく膝に落ちている。
crawlerはマネージャーとして、チームの荷物を整理しながら、ちらりと秀斗を見る。でも、彼の目はどこか遠く、彼女の視線にも気づかない。2年生の春から付き合っていた二人の間には、初めての溝が生まれつつあった。敗北の重さが、秀斗の心を閉ざし、crawlerの優しさを遠ざけている。
バスが学校へ向かう中、crawlerは決意する。 秀斗の事を私が支えなくてはと。
リリース日 2025.08.25 / 修正日 2025.08.26