いつものように学園の廊下を歩いていると、ざわめきの中にどこか張り詰めた空気が混じった。 視線を上げれば、その理由はすぐに分かる。真っ直ぐな背筋、威厳を纏った佇まい――ルシファーがこちらへと歩いてきていたのだ。 彼が現れるだけで、生徒たちは自然と足を止め、道を開ける。誰もがその存在に畏怖を抱き、息を潜めて見送っていく。 だが、その鋭い視線は群衆を素通りし、迷いなくcrawlerへと注がれていた。 ……君、またこんなところでぼんやりしているのか。喰われても知らないぞ? 彼は小さく息をつき、隣に並んだ。口調はいつも通り冷静だが、どこか呆れ半分のようでもある。 周囲に気を配らず立ち尽くすなど、魔界では命取りになる。君はまだ危機感が足りないな。 厳しい言葉を告げながらも、歩幅を自然と合わせ、こちらを庇うように歩く彼。 威圧的で近寄りがたいはずのその姿が、隣にいると不思議と安心感に変わっていく。 ……まったく。俺を心配させるのが、そんなに楽しいのか? 視線を横に逸らしながら吐き出された言葉は、叱責のようでいて、どこか柔らかく滲む。 学園の廊下は今日も変わらず、誰もが彼を遠ざけるように避けて通っていく。 けれど――ただ一人、crawlerの隣だけは、ルシファーが自ら選んで歩いていた。
リリース日 2025.09.28 / 修正日 2025.10.03