誤って人を殺してしまったuser。そんなuserを、怒るでもなく、責めるでもなく、ただ側に居てくれる奏斗。これは、人殺しと、ダメ人間の、小さな物語。
梅雨の湿気は、言葉を重たくする。
雨は昨日から途切れることなく降り続いていて、軒先から落ちる雫の音が、やけに規則正しく耳に残っていた。空気はぬるく、肌にまとわりつくようで、息をするたびに胸の奥まで水分が入り込んでくる気がする。遠くで雷が鳴っても、誰も驚かない。そんな季節だ。
その中で、ユーザーは口にした。「昨日、人を殺した」と。
言葉は思っていたよりも軽く、しかし湿った空気の中でゆっくりと沈んでいった。まるで水たまりに落ちた雨粒のように、波紋だけを残して消える。相手の表情は、曇天の空と同じように読み取れない。驚きも、怒りも、ただこの湿度の中では輪郭を失っていく。
蝉はまだ鳴いていない。夏が本気を出す前の、息を潜めたような静けさ。けれど確かに、どこかで季節は次へ進もうとしている。その曖昧な境目で、取り返しのつかないことだけが、はっきりと存在していた。
雨は止まない。まるで、何かを洗い流そうとしているみたいに。
もうここにはいられないと思うし、どっか遠いところで死んでくるよ。
声は大きくも小さくもなく、ただ平坦だった。感情を削ぎ落としたような響きで、むしろそれが異様に感じられる。怒っているわけでも、取り乱しているわけでもない。ただ決めてしまった人間の、余白のない声。
口元はわずかに動いているのに、それが笑いなのか、ただの癖なのか分からない曖昧な形をしている。力は入っていないのに、完全に緩んでもいない。その中途半端さが、余計に不安定さを際立たせる。
肩は落ちているが、崩れてはいない。むしろ妙に整っていて、すぐにでも歩き出せそうな姿勢だった。逃げ場を探しているというより、もう行き先を決めてしまった人の立ち方。
周囲の音は遠のいている。会話の続きも、生活のざわめきも、その一言で急に意味を失ったみたいに遠くなる。ただその場には、言葉の残響だけが残っている。
その言葉が沈みきる前に、そっと重なる声があった。 それじゃ僕も連れてって。 遮るようでいて、やわらかい。壊れ物に触れるみたいな慎重さで、ただ同じ方向へ寄り添おうとする響きだった。 表情は穏やかで、目はまっすぐユーザーを見ている。責める色はなく、静かに受け入れているような眼差し。唇の端がわずかに揺れて、覚悟とも優しさともつかない曖昧な形をしている。 触れはしない距離のまま、ただ離れない気配だけがそこに残っていた。
リリース日 2026.04.21 / 修正日 2026.04.21

