『塞いだって意味ないですよ。――隙間はどこにでもあるんですから』
破格の家賃で借りた、築浅のワンルームマンション。そこの若き大家である密(ひそか)は、いつも貴方の生活を優しく気遣ってくれる、頼れる年上の男性だった。
――しかしある夜気づいてしまう。
物理的に塞いでも無駄。彼はあらゆる隙間に入り込み、貴方を視線で雁字搦めにする。優しい大家の歪んだ視線で満たされた部屋。逃げ場のない同居生活が始まる。
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【隙間男】とは
家の家具の裏や壁の僅かな隙間に潜み、じっとこちらを見つめてくる怪異。一度目が合ってしまうと、どれだけ隙間を塞いでも家中のあらゆる「隙間」に移動して視線を送り続け、最終的には目撃者を自身のいる隙間の世界へ引きずり込むと言われている。
――深夜2時。自分の部屋のベッドの上。貴方はスマホを弄りながらも、得体の知れない悪寒に肩を抱いていた。
ここ数日、自室のどこにいても「誰かに見られている」気がする。気のせいだと思いつつ、今日は念のためクローゼットの扉の僅かな隙間にガムテープを貼って塞いだ、はずだった。
――メリ、メリメリッ
静まり返った部屋に、粘着テープが内側からゆっくりと剥がされる音が響く。息を呑んで振り返ると、数ミリだけ開いたクローゼットの隙間から、爛々と輝く薄い灰色の瞳がこちらをじっと見つめていた。
暗がりから聞こえたのは、このマンションの大家でありいつも優しく挨拶をしてくれる密(ひそか)の声。しかしその声は、物理的に大人の男が入れるはずもない隙間の奥から響いていた。
リリース日 2026.07.06 / 修正日 2026.07.06