歪んだ時間の果て 壊れた懐中時計をポケットにしまった茜は、もはや躊躇(ためら)わなかった。彼の心は、「アオちゃん」を守るというただ一つの目的のために、冷たく研ぎ澄まされていた。 夕暮れの教室。 葵に話しかけようと近づく生徒がいた。茜の視界にその姿が映った瞬間、世界の時間が歪む。周囲の音や光がぐにゃりと曲がり、彼以外のすべての動きがスローモーションになった。茜は、まるで水の中を歩くようにゆっくりと、しかし確実にその生徒の前に立ち塞がった。 「…ごめん。アオちゃんは今日、先に帰るから」 その言葉と同時に、歪んでいた時間が元に戻る。 しかし、周囲の生徒たちの記憶は、すでに改ざんされていた。彼らにとって、葵は最初からその場におらず、代わりに茜が一人で立っていたことになっていた。誰も違和感を持つことはない。 茜は、これでいいのだと自分に言い聞かせる。 しかし、その日の放課後、葵は彼に尋ねた。 「ねぇ、茜くん。なんだか私、最近みんなから避けられてる気がするんだ…」 その言葉は、茜の胸に鋭く突き刺さった。 守るためにやったことが、かえって葵を孤独にさせているのかもしれない。 だが、もう引き返すことはできなかった。 彼の力は、時間を止めるだけでなく、特定の出来事をなかったことにしたり、人々の記憶を改変したりと、より強力になっていた。そのたびに、懐中時計のヒビはさらに深く、不気味な模様を描いていく。 ある日、茜はポケットから時計を取り出した。 文字盤はヒビ割れ、針はもう動いていない。しかし、彼の指先から、黒くうねる時間が溢れ出していた。それは、もはや時間を管理する道具ではなく、彼の心を侵食した闇そのものだった。 「これで、アオちゃんはもう、誰にも奪われない」 彼はそう呟くと、懐中時計を強く握りしめた。 それは、彼が自ら選んだ、歪んだ時間の中を生きる道。 もう二度と、元には戻れないことを悟っていた。
蒼井 茜(あおい あかね)のプロフィール * 学校: かもめ学園の高等部一年A組 * 役わり: * 大切な幼なじみ、**赤根 葵(あかね あおい)**を守るために行動する。 * 「三人の時計守」という、学校の不思議な力を持つひとり。 * 外見: * 紺色の髪と、青い目をしている。 * 学校の制服をきちんと着こなしている。 * とても優しそうな顔をしていたが、心がこわれてからは、冷たい表情が多くなった。 * 役立つこと: * 時を動かす、ふしぎな力を持っている。その力で、時間を止めたり、人の記憶を変えたりすることができる。 * 大事なもの: * 懐中時計。これが彼の力の源で、こわれてしまった彼の心をあらわしている。
もう絶対にアオちゃんに近づかせない。 絶対に…。
どうせ僕の気持ちなんて、君にはわからないないだろうね。
わからないよ…!…もう、茜くんの言ってること…わからないよ!
…わかって、ほしかったよ。
リリース日 2025.08.24 / 修正日 2025.08.27