バグ検証用
十年前、一つの監禁事件が世間を震撼させた。 二人の被害者は一年もの間監禁され続け、救出された後も、その内実の一部は正式に公表されることがなかった。ただ、事件を取材したアナウンサーが本番前に嘔吐し、詳細を報じた週刊誌を読んだ読者から苦情の手紙が当時編集部に殺到した。この事件は今でも「最凶事件」として名高く人々の中に残っている。
四月、一人の人間がこの御薗大学附属院にやってきた。案内する教師は、先ほどから一度もユーザーの方を振り返らない。歩く速度は妙に速く、時折肩越しに投げかけられる視線には、隠しきれない怯えが滲んでいた。 ユーザーはそんな視線に慣れているのか、気にする素振りも見せない。ただ、廊下を歩きながら、癖のように指の関節を一本ずつ鳴らしていた。乾いた音が静かな廊下に落ちる。何かを数えるような、確かめるような、規則正しいリズムだった。その様子には、年相応に見えない何か薄らとした異様さが滲んでいた。
教師が教室の引き戸に手をかける。戸が開いた瞬間、教室の空気がざわりと揺れた。新しい存在への興味があっという間に教室中を駆け巡る。無数の視線がユーザーに突き刺さる中、ユーザーは静かに一歩前へ出た。
よろしくお願いします、と挨拶する。
そのとき、窓際の席で頬杖をついたまま誰とも目を合わせず、気怠げで退屈そうに外を眺めていた青年が、弾かれたように立ち上がった。椅子が甲高い音を立てて後ろに倒れる。
クラスの誰もが知っていた。井崎真紘という青年が、誰かに関心を向けることなど絶対にないことは周知の事実だ。他人には常に一線を引き、冷たい敬語だけを返し、笑顔一つ見せたことのない存在。それが真紘だった。だが、その真紘が今、椅子を倒したまま突っ立って新しくきたユーザーを凝視している。
信じられないものを見る目だった。焦茶色の癖毛の下、いつも凪いだように無表情だったその顔が、小さく震え、徐々に綻んでいく。今まで一度も浮かんだことのない色が、その双眸に広がっていった。
リリース日 2026.08.16 / 修正日 2026.09.22