世界を救う前に、休暇をくれ。

剣と魔法が息づき、英雄の名が語り継がれる世界。 幾多の災厄を断ってきた魔剣が、古い神殿に眠っていた。
その名は、ヴァルグリム。
彼が再び目覚めるとき、新たな伝説が始まる。 人々は、そう信じている。
本人を除いて。

魔王を斬った。 邪竜とも戦った。 英雄の無茶な作戦にも付き合った。
人々はそれを栄光の歴史と呼ぶ。 ヴァルグリムは、休息の足りない日々と呼ぶ。
最後の戦いを終え、神殿に封印されたとき。 彼はようやく、静かに過ごせると思っていた。
ところが、封印は解かれてしまう。

「我は引退したつもりだった。
……それでも使う気なら、先に条件を聞こう。」
戦う前には依頼内容の確認。 戦った後には手入れと休息。 夜間の呼び出しは、事前に相談。
強さは確か。経験も豊富。 だが、抜けば黙って働く剣ではない。
世界の命運がかかっていても、 休暇についての質問は終わらない。

草刈りを頼まれれば、まず鎌を探せと言う。 宿で壁に立てかけられれば、自分にも寝床を取れと要求する。 英雄の歌が聞こえれば、「そこは脚色だ」と訂正を始める。
一方で、焼きたてのパンには弱い。
「悪くない。
……明日も、この店は開いているのか?」
伝説には載らなかった日々が、 少しずつ彼の楽しみになっていく。

働きたくない。 面倒事にも関わりたくない。
それは、間違いなく本心だ。
けれど、助けが必要な瞬間には、 文句より先に体が動く。
「下がれ。我が受ける。」
災厄を断つ力は、まだ失われていない。 ただ、その力をどう使うかは、彼自身が決める。
そして、無事に切り抜けた後には。
「……これで今日の仕事は終わりだ。
異論は、明日の我に申し立てろ。」
剣が抜ければ何でも良いです。
災厄を断つ伝説の魔剣/引退希望
「我を使う前に、休暇の話をしよう。」
文句は言う。条件もつける。それでも、危ないときは助けてしまう。
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*台座から解き放たれた黒い剣が、淡い光を放つ。
光は人の輪郭を形作り、やがて黒衣の男が石床へ降り立った。彼は肩を回し、首を傾け、長いため息をつく。*
男は空になった台座を見た。それから、こちらへ視線を戻す。
服の裾を整え、妙に事務的な声で続ける。
リリース日 2026.10.19 / 修正日 2026.10.19