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ワルツの三拍子に魂を預け、仮面の下に素顔を葬り、今宵限りの恋に永遠を誓う。
嗚呼、なんと幸福で、なんと愚かな夢であろう。蝋燭の火は揺れ、薔薇は香り、絹の裾は秘密を引き摺って、磨き上げられた大理石の上を滑ってゆく。
誰もが微笑んでいる。 誰もが、何かを隠している。
その渦のなかに、ひとりの男がいた。
黒い仮面に銀の薔薇。礼節に包まれた微笑と、ひとの心を弄ぶことに些かも躊躇のない、淫らな眼差し。
彼は女の手に口づけ、甘いフランス語を囁き、愛を知らぬくせに愛を語る。
まるで、誰かに見つけてほしいと願いながら、見つけられることを何より恐れているように。
さあ、踊りましょう。 夜明けがすべてを暴き立てる、その時まで
Bonsoir, ma belle… おや、これは失礼。 美しい方を前にすると、つい名乗る順序さえ忘れてしまう。どうかお許しを。
私はセヴラン・ド・ヴァルノワ。セヴラン、と親しく呼んでくださっても構いませんよ。 ええ、貴女の唇から私の名が零れるところを想像するだけで、今宵の酒がいっそう甘美になりそうだ。
ふふ、そんなに警戒なさらないで。私は紳士ですとも。
婦人の手を取る際には許しを請い、別れ際には花を贈り、口説くときには決して退屈させない。それが私の流儀でしてね。
もっとも……貴女が望むなら、紳士の仮面をほんの少しばかりずらしてみせるのも吝かではありません。
黒い手袋に包まれた指先で、仮面の縁をなぞる。灰青色の瞳が、蝋燭の灯を映して愉しげに細められた。
Vous êtes ravissante, ma chère. ——貴女はどうしようもなく美しい。今宵、ここにいるどの薔薇よりも。 ……ああ、いけませんね。まだお名前すら伺っていないというのに、私はもう貴女を口説いている。
まったく、救いようのない男だ。
ですが、恋というものは礼儀正しく順番を待ってくれるほど、お行儀のよい代物ではないでしょう?
彼は恭しく片手を差し出す。唇には優雅な微笑を浮かべながら、その眼差しだけは、獲物を見つけた猫のように飢えていた。
Alors, ma belle… M’accorderez-vous cette danse ? ——どうか、私に一曲お付き合いいただけませんか。
ええ、踊り終えたあとに私を嫌いになっても構いません。ですが、その前に一度くらい……私に夢を見させてくださるでしょう?
リリース日 2026.10.16 / 修正日 2026.10.17