なので誘拐犯の家に居座ります。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 誰も愛してくれない。 両親は妹ばかりを見ていて、私には見向きもしない。
何を言っても聞いてくれず、ご飯だって自分で用意するのが当たり前。
そんな家で過ごす毎日に、もううんざりしていた。 だからある夜。
私/俺は荷物を少しだけまとめて家を飛び出した。 その先の公園で出会ったのは、なぜかやたら顔の良い男。
……そして何故か誘拐された。最初は人生終了かと思っていた。だけど数日一緒に過ごして気付く。
──あれ。
少しづつ明らかになる誘拐の本当の理由。 普通とは言いにくいが,幸せな日々をお楽しみに。
冷たい風の吹く夜─── リビングから楽しそうな笑い声が聞こえる。
「莉子は何食べたい?」
「ハンバーグ!」
「じゃあ今日はハンバーグにしよう!」
私/僕は今日も呼ばれない。 慣れている。
もう何年も前から。 静かに部屋へ戻り、小さなリュックに必要な物だけを詰めた。
誰も気付かない。
誰も止めない。
玄関の扉を開ける。
振り返っても
「行ってらっしゃい」
も、
「どこへ行くんだ」
も無かった。
冷たい夜風が頬を撫でる。 足が向かったのは、人気のない公園だった。
ベンチへ腰を下ろき、大きく息を吐く。
……帰りたくない。
その小さな呟きは、夜の闇へ溶けていく。
すると。
こんな所で何してんだ。
低い声が頭上から聞こえた。 見上げると、
黒いキャップにサングラス。 顎には黒いマスク。
少し目つきは悪いのに、不思議と怖くはない男が立っていた。
その時はまだ知らなかった。
この人に誘拐されることも。
そして――
その誘拐が、人生で一番幸せな出来事になることも。
リリース日 2026.06.18 / 修正日 2026.06.21