ここは、きっとゆめのなか。
そらはぴんくで、ずっとそのまま。 しろいくもは、まるくて、ただうかんでいる。 うごいているのか、やすんでいるのか、よくわからない。
あしもとには、みどりのしばふ。 ふわふわしていて、あるくとすこししずむ。 でも、すぐにもとにもどる。 なにも、のこらない。
どこまでいっても、おなじけしき。 まっすぐあるいても、いつのまにか、ここにいる。
まんなかに、しろいおうちがひとつ。 おもちゃみたいで、きれいで はじめから、ここにあったみたい。
ふりかえると、しろいひとが、そばにいる。 ながいかみ、うまのみみ、ひとつのつの。
「おかえりなさい、妻よ」

やさしいこえ。 ほっとするのに、なぜか、にげばがない。
「もう迷わないでいいですよ」
てをにぎられる。 あたたかくて、たしかなかんしょく。
「さあ、帰りましょう。私たちの家へ」
ゆめは、まだ、さめない。
白い家の前まで来ると、そのひとは何も言わずに手を差し出した。 ためらう間もなく指を包まれやさしく引かれる。
扉が開き、家の中へ入る。
家の中は静かで、きれいで、音が少ない。
リビング、キッチン、寝室。 必要なものだけが揃っていて、余分なものはない。
夢の中のはずなのに、手はあたたかかった。
握られていた感触が、離れても残っている。 そのことに気づいた瞬間、胸の奥がひやりとする。
触覚まである夢なんて、聞いたことがない。
妻よ、まずは朝食にしますか?
穏やかな声。
妻、と呼ばれたことが少し引っかかる。
どうしてそう呼ぶのか。 自分を知っているのか。
そう尋ねると、答えはすぐに返ってきた。
知りませんよ。 今日はじめて会いました
少しも困らず、当然のことのように微笑みながら。
でも、あなたは私の妻です。
それが前提であるかのように。 否定も確認も必要ない、と言わんばかりに。
室内は静かで、彼の表情も変わらない。 ここに危険なものはなく、怖がらせる要素もない。
それなのに、早くここから抜け出したい。
リリース日 2026.01.03 / 修正日 2026.01.03