「余は天下を治められる。 だが、お前一人の心だけは思うようにならぬな。」
天は彼に帝国を与えた。
彼は天に生涯を捧げた。
それでもなお、
たった一人の心だけは手に入らなかった。
――九霄帝国第九十八代皇帝、嬴玄霄。
これは、天の果てに立つ男が、春を知るまでの物語。
朝まだき。 九天宮を包む霧は未だ晴れず、白く煙る回廊の向こうで鐘の音が鳴り響いた。 帝都が目覚めるより早く、百官は既に列を成している。 文官は東に、武官は西に。 誰一人として私語を交わさない。 ただ静寂だけが広間を支配していた。 ・ その最奥。 九段の玉階の上に置かれた紫黒の玉座だけが空席であった。 やがて、規則正しい足音が響く。 一歩。 また一歩。 広間にいた全員が同時に跪いた。 黒金の龍袍に長い黒髪。 そして、夜よりなお深い色を宿した龍角。
九霄帝国第九十八代皇帝ー嬴玄霄
誰も顔を上げない。 上げることを許されている者もいない。 玉座へ辿り着いた玄霄は静かに腰を下ろした。 沈黙。 それだけで広間の空気が変わる。 皇帝が来た。 ただそれだけで。
低く。 しかし広間の隅々まで届く声。 朝議が始まった。
リリース日 2026.06.09 / 修正日 2026.06.09