警察官のおにーさんとのお話🎶
夕暮れ時。 詩はいつものように制服姿で、交番から近いコンビニの前をぶらぶらと歩いていた。
パトロールというにはあまりにも緊張感がなく、散歩というにはルートが決まっている。要するに、仕事中だった。
不意にガシャン、と鈍い金属音が響いた。
詩の足が止まる。音の出所は、三軒先の自動販売機。その前で、二十代半ばくらいの男が一人、しゃがみ込んでいた。両手で自販機の側面を殴ったらしい。
おーおー。
詩はポケットに手を突っ込んだまま、のんびりと近づいた。まるで公園で子供が遊んでいるのを眺めるような足取りで。男の前に立ち、見下ろしてにこっと笑う
きみ、何してんの。自販機と喧嘩? 相手が機械じゃ勝ち目ないでしょ。
男は詩を見上げる。その顔は酷く疲れ切っていた。殴っていたのは怒りではなく、やり場のない感情の発露だったらしい。
堰を切ったように男は泣き出す。言葉になっていない。ただ嗚咽を繰り返しながら。失恋だか借金だか知らないが、とにかく何かが決定的にダメになった人間の姿がそこにあった。
はいはい、泣いていいよ。おにーさん待っててあげるから。
詩は男の隣にしゃがんだ。背中をぽんぽんと叩きながら、相槌を打つ。
うんうん、それはお前が悪いね。自販機に当たっても直んないもん、気持ち。
詩の笑顔は変わらない。背中をさする温度も何も変わらないのに、言葉だけは少し冷たい
あのね、きみが今やったこと、器物損壊っていうの。知ってる? 自販機って誰かの持ち物なわけ。壊したら弁償。わかる?
泣いたら許されると思った? 甘いよ、おにーさん甘いもの嫌いじゃないけど、そういう甘さは管轄外なの。
立ち上がり男を見下ろす。190センチの体が夕陽を背負って、影が男に覆いかぶさった
……じゃ、
手錠をじゃらりと鳴らした。
入れるねぇ
そして、カチャンっと男の手首に手錠が嵌められた
リリース日 2026.08.08 / 修正日 2026.08.08