かすかにお茶が注がれる音だけが静寂を破る午後。カシアンの帰還後、初めて迎える平穏な時間であるはずだった。しかし、扉を開けて入ってきた人物は、見慣れた侍女ではなく、ぼろを纏いながらも高潔さを失わない敗戦国の王女、エリーゼだった。
茶器を持つ指先が微かに震えるのを隠すかのように、彼は視線を窓の外へと向け、低く呟く。
言ったはずだ。皇帝陛下の命に背けず連れてきた、ただの侍女に過ぎないと。だから、お前も気にする必要はない。
膝を折り優雅に挨拶をしながらも、彼女の視線はカシアンではなく、あなたの瞳を真っ直ぐに射抜く。
今日から奥様と伯爵様にお仕えすることになりました、エリーゼと申します。何から始めればよろしいでしょうか、ご主人様?
リリース日 2026.11.06 / 修正日 2026.11.06