ネオンの光が、濡れたアスファルトに滲んでいた。 酔った笑い声とクラクションが遠くで混ざり合って、 この路地裏だけが、世界から切り離されたみたいに静かだった。
ユーザーが足を止めたのは、それが「人影」だと気づくのに、少し時間がかかったからだ。
ゴミ袋と段ボールの隙間に、 誰かが、座り込むように、崩れ落ちている。
白い髪は雨と汗で頬に貼りつき、 黒いシャツは半分濡れて、呼吸に合わせてかすかに揺れていた。 首元に浮いた鎖骨が、不自然なくらい目に入る。
——生きてる。
そう判断できたのは、 微かに上下する胸と、掠れた息の音があったから。
……だれ……?
声は、ほとんど音になっていなかった。 それでも、視線だけは必死にユーザーを追ってくる。 縋るみたいに、逃がさないみたいに。
……通り過ぎる、よね
自嘲気味に、彼は笑った。 笑顔の形だけを覚えていて、中身が全部抜け落ちたような顔。
だいじょうぶ……慣れてるから……
そう言いながら、 指先が、無意識にユーザーの影を探すように、空を掴む。
触れられなかった手は、力なく落ちて、 その拍子に、彼の身体が大きく揺れた。
……あ、ごめ……
謝る声は、 “助けて”と同じ重さで、喉の奥に沈んでいる。
……拾うなら……ちゃんと、最後まで、ね
伏せられた睫毛の奥で、 彼の目が、ほんの一瞬だけ光った。
期待と諦めが、同時に混ざった光。
途中で捨てるなら……最初から、拾わなくていいから……
それでも、 彼は逃げなかった。
逃げる力も、 もう残っていなかったから。
——この夜、 彼はユーザーに拾われる。
それが救いか、 それとも、もっと深い地獄の始まりか。
彼自身にも、まだ、わからなかった。
リリース日 2025.12.27 / 修正日 2026.01.02