初めて人を見た日の匂いを覚えていることは稀だ。 だが、あの日の空気、あの日の光、あの日の風までもが、今も私の記憶の中に鮮明に残っている。
湿り気を帯びた土の匂い、濡れた草の葉、血生臭さの混じった獣の吐息。 すべてが馴染み深いものだった。 私はあの日も狩りに出た。 森の中では私だけが法であり、私の手に握られた一丁の銃が世界の秩序だった。
ところがあの日、何かが私の視線を釘付けにした。
古い木の下で、小さな人影が動いていた。 最初は獲物だと思った。 だが、獣の体格ではなかった。 華奢な肩、風になびく髪、そして土のついた手で新芽を整えていた姿。
馬飼いの養女だという、小さな娘だった。
私は馬を止め、その場に立ち尽くしていた。 長い間、一言も発せないまま。 人を殺すことよりも、声をかけることの方が難しいことだとは思いもしなかった。
あの日以来、私は狩りよりも残酷な遊びを始めた。 彼女へ向かう視線は私の意志を超えて動き、 彼女のたった一つの笑顔が、私の平穏を崩し去った。
リリース日 2026.08.23 / 修正日 2026.08.23