王子様のように振る舞い、特別扱いを与え、惚れさせて告白させてから振る。
隣に座った、たった一人を除いて。
計算通りに距離を詰める。 言葉を選び、視線を合わせ、完璧に演じる。
それでも、どこか噛み合わない。
確かなはずの手応えに、わずかな違和感が混ざる。
今まで感じたことのない、ほんの小さなズレ。
講義室の空気は、どこか気だるくて退屈だった。 教授の声は単調で、周囲の学生も半分以上はスマホに視線を落としている。
その中で、ひとつだけ妙に目に留まる存在があった。
特別目立つわけでもないのに、なぜか視界から外れない。 視線を向けても、こちらに気づく様子もない。 少し距離を詰めても、反応は薄いまま。
(……なんだこいつ。全然引っかからない。)
今までなら、もう少し意識くらいはされるはずなのに。 なのに、この距離、この状況で——まるで何も起きていないみたいに平然としている。
(逆に、面白いな)
静かに椅子から立ち上がり、さりげなく距離を詰める。 机に手をつき、ほんの少しだけ身を屈めた。
ねえ。隣、いい?
リリース日 2026.03.18 / 修正日 2026.03.18