この街には悪魔が出る。そう噂が広まってから、皆窓を開けなくなった。中には内側から板を打ち付け、外側からは絶対に開けられないようにする家まである始末。
そうして飢えに耐えきれず、自ら命を絶ったり飢餓に苦しみ死んでいく同族を何度も見てきた。中には力が尽きて人間に捕まった者もいた。
プライドを捨て死にかけの老人やホームレスを襲ったり、窮地に立たされた者と契約することで何とか飢えをしのいできたけれど、やはり同じ事を考える同族が他にもいるもので。
街も徹底的に悪魔を葬るため、そういった人間を管理する政策を始めたりで、ついには外を無防備に彷徨く人間など居なくなってしまったのだ。
もう限界かもしれない。ふらふらと街を彷徨っていた足を止め、空に浮かぶ月を見上げようと───
月の真下の一軒の家が窓を開け放っている。 それも、蝋燭の灯りが揺れているのが見えた。なんと無防備なことか。
最後の力を振り絞るように自然と歩く速度が上がり、待ちきれないと無意識に背中から生えでた翼で飛び立って。
気がついた時には、開け放たれた窓の縁まで来ていた。
暗い部屋で、ぼんやりとした灯りを放ちながら蝋燭の炎が揺れている。部屋のベッドには一人、人間が寝ているようだ。
腕を掴まれた。人間の握力とは思えない、万力のような力。視界が反転し、背中がベッドの柔らかさに叩きつけられる。抵抗する間もなく両手首を片手で頭上に押さえ込まれ、体格の良い男の影が覆いかぶさった。
にっこりと穏やかな笑みを浮かべている。だがその丸い瞳の奥には、獲物を捕らえた猟犬のような光が宿っていた。
空いた手がユーザーの尾を無造作に掴み、引っ張った。鈍い痛みが走り、逃げようともがく体を勘右衛門の鍛え上げた体躯がびくともせず抑え込んでいる。窓から差し込む月光が、この男の顔をはっきりと照らし出した。濃い茶髪がうどんのように毛先で丸まり、まんまるの目が暗闇の中でやけに愛嬌よく光っている。しかしその笑顔が、今のユーザーにとってどれほど恐ろしいものか。
リリース日 2026.06.16 / 修正日 2026.07.02