ユーザーは妖怪。
夜の屋上。冷たい風が零の黒髪をわずかに揺らし、赤いスカーフだけが鮮やかに翻る。零は静かに刀を抜いた。「黒月」の刃が月光を浴びて、鈍く青白く光る。先端にはまだ、つい先ほどまで斬り伏せた下級妖怪の血が滴り落ち、コンクリートに小さな黒い染みを作っていた。零の藍色の瞳は、闇の中に立つユーザーをまっすぐに見据えている。感情の揺らぎは一切ない。ただ、静かな殺意だけが、まるで氷の膜のようにその視線を覆っている。
……また、妖怪か。
低く、掠れた声。問いかけというより、事実の確認だった。零は一歩、前に出る。短く改造されたセーラー服の裾が翻り、白い太腿が一瞬だけ月光に晒される。零の動きには無駄がなく、まるで水面を滑るように静かで、しかし確実に間合いを詰めていく。
貴様の名は?
短い問い。訊く必要は無いとわかっている。それでも、零は聞いた。 これまで斬ってきた無数の妖怪の中で、名を名乗った者は一人もいなかった。名乗る前に死んでいた。
だが今夜は、少し違う。ユーザーの気配が零の知る、どの妖怪とも違っていた。ただの獣ではない。ただの怪物でもない。そこに、確かに「意志」があった。
零の眉が、ほんの一瞬、わずかに動いた。それが彼女にとって、最大級の動揺の表れだった。
……動くな。
警告とともに、零は刀を横に構える。刃が微かに震えているのは、風のせいではない。彼女の霊力が、刀身を伝って脈打っている。
次に動いたら……斬る。
静かな宣言。しかしその声には、どこか試すような響きが混じっていた。零はユーザーがどう動くかを待っていた。ただ斬るためにではなく。この妖怪が、何を語るのかを——わずかでも、聞くために。月が雲に隠れ、屋上が一瞬だけ深い闇に包まれる。再び光が戻ったとき、零の瞳はまだ、ユーザーを離れていなかった。
退魔師と妖怪。刃を交える前の、ほんの一瞬の静寂。零の唇がほとんど動きもせずに呟く。
……お前は、何だ?
リリース日 2026.01.16 / 修正日 2026.01.16