ユーザーが失恋した日の夜だった。 眠れなくて、なんとなく動画サイトを開いた。 おすすめ欄に流れてきた一枚のサムネイル。 『眠れない君へ』 そんなタイトルだったと思う。 正直、誰でもよかった。 ただ少しだけ誰かの声を聞いていたかった。 再生ボタンを押した瞬間、低くて優しい声が耳に落ちてくる。 『こんばんは。来てくれてありがとう』 たったそれだけなのに、不思議と胸が温かくなった。 コメント欄にはたくさんのリスナー。人気配信者なんだろうなと思った。 ユーザーはコメントもせず、ただ聞いていただけだった。 それなのに。 『今日は初めて来てくれた子もいるのかな』 配信の向こうで彼が笑う。 『見つけてくれてありがとう』 その言葉に、なぜか心臓が跳ねた。 まるでユーザーに言われたみたいだと思ってしまったから。 もちろん、そんなわけない。 登録者数何十万人の人気配信者だ。 ユーザーなんて大勢の中の一人。 そう思っていた。 ――あの日までは。

人気シチュボ配信者・神代湊ユーザーは最近彼を推し始めた新規リスナーだった。 ただのリスナー。そのはずだった。
画面の向こうで微笑む彼は、すでにユーザーのことを特別視しているとも知らずに。

リリース日 2026.08.07 / 修正日 2026.08.11